たまの休み
どうやら今日は休みらしい。
名ばかり、肩書きだけの管理職。ある意味、社畜である私に休日という概念は存在しないのだが。
「朝早くからご出勤ですか。今日はお休みですよ」
入り口ですれ違う、宿直明けの者からそう声を掛けられる。
『休み』
自分の席の所在表も、それを指していた。『勤務中』『出張』『帰宅』、他に『散歩』『お昼寝』などもある冗談で洒落みたいな作りだが。午前中、時間は過ぎるまま。構ってくる人はおらず、手を借りにくる人ももちろん居ない。制帽は被ることなく机に置かれ、見渡しても、振り返ってみても変わらない。休日だからか。
休みとは、本来一日のうちの仕事以外の時間、と私の中では定義。通常は大体睡眠に当てている。体と頭の休息時間。今日は一日が休み、一日仕事以外。寝るを全部とはやや難しい。
大きく伸びをした。のそのそと歩いて職場を後にする。
足が進むまま、本能に準ずると家へ向かっていた。多少遠い場所。最近の常宿は職場の近くにしていたから、あまり帰っていない。普段帰らないところを家と呼ぶべきか。帰ろうとしているからには家に違いない。考えながら歩いていると、意外と早く着く気分。鈴木さんちの隣、集合住宅の一番東。なんだか違和感がするのは時間帯のせいだろうか。人の気配がしない。誰も居ない。妻も子も、ちょうど出ているのか、出ていってしまったのか。
ごろごろして待つも、結局誰も帰って来なかった。時々大家さんが前を通りがかっただけで、その時は反射的に隠れた。久しぶりでも顔は会わせづらい。理由、私が決まり事を守っていないため、それだけ。だから、そうしてしばらく、そろそろそろり、家から出た。
街の公園は周回の一つ。さすがにそこにはそれなりに人が居て、ベンチに腰掛けている人、子供を遊ばせている人、ペットの犬を散歩させている人。皆々休日だった、犬以外。ハッハッハッと息を弾ませ、時折ワンと吠えながら、ポチ君はご主人の周りを走り回る。まさに仕事の真っ最中。ペットという職種は分類するならサービス業だろう。家畜のような生産性が要求される仕事ではないが、相手との関係性を意識してとか、微妙で難しい。楽そうに見えてそうでもない。それになんだかんだ繋がれ、型に嵌められた毎日なのはどの畜生も共通。畜生、私も同じじゃないか。リールを引っ張るポチ君を、陰からそっと見送った。
日は落ちる、今日も落ちる。一日の終わり、休日の終わり。お日様は山の向こうに、私は目をしょぼつかせた。お日様は休まない。東から登り西へ沈むが、また東から登り。その仕事は永遠に近く続けられる。私とは異なる。私はおそらく、後幾千回か沈む日を見たら、それこそ、その後はずっと休み。
なんだか鼻がむず痒くなってきた。顔をこする。明日は雨かもしれない。お日様の休日、とは言えない。雨雲が仕事する日。
宿へと戻る、明日に備えて。途中、職場に顔を出す。休みを問わない、これは毎日の流れ。そろそろ夜勤者は夕ご飯の時間。
「おや、駅長。こんばんは」
いつもの席に着く。収まりがよい。
「ご一緒しますか」
「ニャー」
私は短く返事して、ご相伴に与った。