思い出の町のキオク
昔、祖父母が西の町に住んでいて、休日は家族で泊まりに来ていた。親戚も集まって、よく近所のおもちゃ屋でカードを何回も買ったのを覚えてる。
「ねぇ、おもちゃ屋さんってまだある??」
「あるよー」
「行ってみていい?」
「いいよ~」
生まれてから23年、ずーっとこの町に住んでる彼女は歩きながら「あのお店はなくなった」「ここはよくいった」「ここのオムライスは美味しいよ」と話してくれた。
言葉にだして言うたび、彼女の口元はほころび優しい目をしていた。
「そこのスーパーはよく行ったなぁ」
「私のところもー。あと潰れちゃったスーパーも行ってたから、なくなった時は大変だったよ」
「もうひとつあったんだ!」
「あったんだよ~」
やっぱり地元民には敵わないな。町の深いところまでに思い出がつまっている。
ぼくにはポツリ、ポツリとした思い出しか、ここにはないな。あのころは、大人たちと行くことしかできなかったから。自由に歩き回ったことがない商店街を、今、彼女と歩いている。
彼女と出会ったのは7年前、この町の高校で出会った。
出会ってすぐ意気投合して、付き合って、高校を卒業したあと彼女専門学校に、ぼくは大学に進学した。何度も距離を置いたり、また戻ったりを繰り返した。
「おー変わんねーなぁ」
10年ぶりぐらいに訪れた。廃れてはいるが、そこも昔と変わらない。陳列してあるおもちゃも今時のものから、ぼくらがまだ10代にもなっていない頃のものが並んでいる。さすがに値下げされているし、ほこりもかぶって、色褪せている。時代を感じるとは、まさにこういうものだろう。
「もこもこ家族のシリーズ、ちょっと古いのまだあるー」
「それぼくの妹も遊んでたよ。もうないと思うけど」
「私はまだ持ってるよ。元々はお母さんが集めてたものだから、簡単に捨てられなくて」
少しの間その場から動かなった彼女に「何か欲しいのある?」と聞いた。黙って買っておいて、あとで渡すことを悟られ、彼女は首を横に振った。
地元の少年がカードの棚を眺めていると「モンモンのカードかい?」とレジにいたおじいさんが声をかけていた。少年はキョトンとした顔で首を左右に振って去って行った。
少年が去ったカードの棚に一人で見に行く。おもちゃと同じく古いパック新しいパックのカードが並んでいる。
離れて違う棚を見つめていた彼女を見つける。何かニヤけている。
「何ニヤけてんのー」
「んーお父さんあれ持ってたなーって」
指さしたのは戦隊ヒーローのフィギュアだ。それも全員揃った、大きな箱に入ったやつ。
「お父さん、ヒーローもの昔から好きだから」
「勉強しとこ。挨拶しに行った時の話題として……」
「しなくていいよ。話し出したら止まらないんだから」
小柄な彼女は少し耳を赤くして、せかせか店の外へと向かった。その後をついて歩きながら「あ、あれでカードめっちゃ買ってた」とぼくは店の前にあったカードの自動販売機を指さす。
彼女は「へー」としか言わなかったが、振り向いて笑う。
おもちゃ屋を後にして商店街の奥に進む。
さっきのおもちゃ屋のように古いお店や新しくできた店、シャッターが閉まった店が建ち並ぶ。
「特に何もないし、この先は大きい道路に出るよね?」
「うん。どうする? 君の地元まで歩く?」
「ぼくは別にいいけど……。足大丈夫?」
「平気! 慣れてるし」
「じゃあ、行くかー。あ、あっちにさ、ゲーム屋あったよね! 中古の!」
大きい道路に出たところで、僕は向かう先とは逆の道を振り向いて言った。
「あったよーでもだいぶ前になくなったよ」
「それはぼくも知ってるよ! ほんと十年ぐらい前だよね」
「今は八百屋さんか薬局屋さんだよ」
まったく違う店ができると、違和感しか感じないな。
西の町から少しずつ離れていく。オレンジ色に染まる太陽が沈んでいるを見てふと思った。
あのおもちゃ屋に入った時、彼女はどんなことを思い出したのだろう。また聞けるといいな。
-おわり-