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高校時代に書いた短編集

魔王が仲間になりたそうにこちらを見ている

作者: 井花海月

短編ファンタジー書いてみました。

「これでトドメだぁあっ! 魔王!」


 ついに俺は、魔王の胸元に剣を深く差し込んだ。


「ぐっ……ぐぁああああああっ!?」


 胸にはめられた闇の結晶石を破壊すると、魔王は断末魔と共に倒れる。


「やったか!?」

「ついに、倒せたのか……? ついに、平和な日々がやってくるのか!?」

「魔王の弱点はあの結晶石だ。奴とて復活はできない!」


 四天王を倒し終えた仲間たちも歓声を上げる。

 ここまでくるのに、本当に苦労した。

 初めは一人で心細かったけれど、手助けしてくれた仲間たち。

魔王討伐に協力してくれる者がいたからこそ、共に助け合いながら、ここまで来られたのだ。


「よし、タナカ城に帰ろう。魔王を倒したとなれば、もう恐れるものはない」

「「「おう!」」」


 剣を背中にしまい、魔王に背中を向けた時だった。


「……フフフ」


「なんだと!?」

「馬鹿な……」


 あろうことか、魔王は笑いながら起き上がった。


「ありえない! あの結晶石は弱点のハズ!」

「ああ、確かに弱点だが、別に破壊したからといって死ぬわけではない」

「心臓だって破壊したぞ!?」

「残念だが、我は右心臓なのだ」


 魔王はピンピンしていた。こちらはかなり体力を消耗しているというのに。


「勇者よ、我の目を見ろ」

「な、なんだよ……」

「やめろ勇者! 洗脳されてしまうぞ!」

「もしくは石にされるぞ!」


 いや違う。洗脳されるわけでも石にもされる気配はない。

 それどころか、魔王の目からは全く殺気を感じない。


「まさか……この目は!?」



『魔王が仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?』

『はい』『いいえ』



「「「「えぇえええええええっ!?」」」」



 間違いない、あの瞳は仲間になりたそうだ。


「やい魔王、そんな目をしたって、オレたちの目はごまかせないぞ!」

「ふふふ、勇者なら分かるだろう? 我が仲間になりたそうな目だということを」


 その通り、魔王は間違いなく誤魔化しようもなく仲間になりたそうなのだ。

 でも、どうする?

 ここで魔王を仲間にした勇者なんて、どんな評判を受けるのだろう?


「おい僧侶、ここで断ったらどうなるんだっけ?」

「えーっと……確かこれまで通りなら寂しそうに帰っていきます」

「このまま帰すのも、それはそれで問題じゃないか? 倒すか仲間にするかの二択だぞ」


 これは難しい問題だ。これまでも難しいダンジョンを攻略してきたが、一番難問かもしれない。


『魔王が仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?』

『はい』『いいえ』


 まず、いいえを選び取った時点で魔王は背中を向けて帰ってしまう。帰ってしまうということは、また暴れ出す可能性もある。つまりこの選択肢はまずい。


「勇者よ、我を仲間にすると多大なメリットがあるぞ。我が軍の率いる魔物を使い放題。遊んで暮らすことができるんだ」

「うっ……」


 遊んで暮らせる……そんな暮らしを夢見たこともあったな。


「勇者! 惑わされるな。お前の母親は魔王に殺されたから、仇を取るためにここまで来たんじゃないか!」

「まああれは、正確には四天王がやったことだし、もういいかなぁ」

「勇者ぁあああああっ!」

「それだけではない、この魔王城は耐久性抜群。五百年は持つ。そこで暮らせるということは、永久に安全が保障されたも同然」


 ああ、安全な生活……考えてみれば、ここにくるまでおんぼろな宿屋で夜風を凌ぐ日々だった。


「そしてそしてさらにぃい!!」


 にやぁっと笑う魔王。


「我の力を使えば、お前らのパワーは今の十倍は戦闘力を得られる!」


 今の……十倍?

 なんてことだ。今までの困難を乗り越えて手に入れた強さの、十倍だと?


「勇者は確かに素晴らしい存在だが、権力はない。どうだ、権力とやらを手にしてみたくはないか?」

「魔王、今日からお前は俺たちの仲間だ!」


 魔王が仲間になった。





「チッ、また新たな勇者達が現れたようだ」


 魔王は歯ぎしりしながら王座から立ち上がる。


「それも、もうすぐここに到着するそうではないか」

「魔王。俺たちも加勢するぞ」

「そうだな、こんないい生活の邪魔はさせられねぇな」

「私たちの強さは計り知れないほどになっている。勇者に叩きつけるのも悪くはない」

「負ける気がしないなぁ」


 闇の力を纏った元勇者たちは武器を構える。


「そうだな。頼んだぞ勇者たち……いや、四天王よ」


 扉が開き、新たな勇者たちが現れる。


「おい魔王! 覚悟しろ」


 魔王の力で怪物と化した元勇者の四天王たちは、今の勇者と対峙する。

 彼らがやられれば、また選択肢を用意するだけだ。


『魔王が仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?』

『はい』『いいえ』


四天王は倒され、新たな勇者は魔王と仲間になり四天王に生まれ変わるのだった。

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