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第7話(仮)

 熱い熱い料理を食べて、一晩眠ればこの通り!

 服も朝一で買い換えたから、もう寒くない! 起き抜けにオッチャンオバチャンに笑われたけど、気にしない!

 通りすがりの人たちにも笑われたけど、気のせい……っ!

 朝だけど人通りが多くて、活気溢れる市場を通り抜けて待ち合わせ場所へ。


「と、言うわけで教えてもらったこの店に行こう!」

「シアム、楽しそうだねえ」

「当たり前でしょ? 他所の町の宝玉店を見るの、楽しいじゃん」

「そお? オレは興味ないけどなあ」


 指定した待ち合わせ場所には、既に三人が待機していた。僕が服を買ってたから当然だけど、待たせちゃってなんか申し訳ない気持ちになる。

 それでも、これからのことを考えると楽しくて仕方ない。

 他方、ミノアは相変わらずの無表情だけど、なんか眠そう。ドゥールはそんな彼女の手を引いて暇そうにしている。 

 近くを歩く人たちが、珍しそうにミノアと、特にドゥールへ視線を送っている。確かに一人で外を歩くエルフは珍しいかもしれない。

 横に逸れそうになる思考を捨て、手を突き上げる。


「さ、さくっと終わらせよう! あ、ドゥールとミノアは待っててもいいよ。宝玉を買うだけだから、財布があればいいし」

「全く、俺を財布呼ばわりか」


 苦笑するフリギアは昨日の疲れもなく、元気そう。昨日持っていた大量の荷物も見当たらない。

 僕の言葉を受けて、ドゥールはそれなら、と顔を市場の方へ向ける。


「オレ、待つの嫌だし、さっき通り過ぎた菓子屋行こうっと。ミノアはどうする?」


 尋ねられ、ミノアは目を擦りながら小さく首を縦に振る。


「お菓子食べたい」

「じゃ決まり! 行ってくるね!」

「行ってくる」

「ちょっと待った!」


 ミノアの手を引くドゥール。今にも突撃しそうな二人を慌てて引き止める。

 不思議そうに首を傾けるドゥール。既に頭はお菓子で一杯なのか、僕に止められて不満そうです。


「どしたの、シアム?」 

「えっとさ、悪いんだけどミノア、杖借りてもいい? 必要なんだ」

「はい」

「えっ?」


 あっさりと銀色の杖を差し出してくるミノアさん。それ、大事な武器じゃないんですか?

 あまりにも警戒心がない行為に動きが固まる。ううむ、ドゥールがいるから大丈夫ってこと…なのかな。


「はい」

「あ、うん……ありがと」


 押し付けられるように杖を受け取った僕へ、フリギアがどこか嬉しそうに問いかける。


「その杖だが、細工にどれほどの時間がかかる予定だ?」

「…そうだね、昼前には終わらせるよ。あっ、それで僕の仕事は終わりだからね!」


 これ以上は関わらないからね、と言えば、フリギアも首肯する。そのままフリギアは二人へ顔を向ける。


「分かっている。では二人とも、宿舎の前だ」

「りょーかい!」

「うん」


 今度こそドゥールとミノアは菓子屋へ突撃していく。僕らはミノアの杖を持って宝玉店へ突撃。

 教えてもらった道と、簡単な地図を見比べて店を探す。

 ……む。ここっぽい。店名も合ってる。

 立ち止まり、珍しそうに店を見上げるフリギアへ声をかける。


「この期に及んで、お金足りないとか言わないでよ?」

「心配するな」

「頼りにしてるからね」

「任せておけ」


 苦笑気味な返事を聞いてから、周囲の建物より一回り規模が大きい店へ。

 入った途端流れてくる、完全に保たれた空調が肌に心地いい。さすが、町一番らしい宝玉店。

 朝なのか、それとも元々一部の職にしか需要がないためか、客は僕らだけ。

 だからか、さっそく身なりの良い店員が僕らを視界におさめて、食いついてきた。


「いらっしゃいませ。何をお買い求めですか?」

「属性付きの宝玉と、調整用の宝玉が欲しいんだけど」

「さようですか。では、こちらになりますね」


 店員の視線はお財布さんと僕が持っている杖に固定されている。けど、ここは僕がしたいようにさせてもらうからね。

 だからこそ、胡散臭い笑顔を浮かべた店員が指し示した一角を横目で確認して、首を振る。

 棚に並べられた、剥き出しの宝玉たち。あれは、ない。


「その程度の宝玉を薦めるの、止めてくれない?」

「いえ、そのような。では、こちらなど如何でしょうか?」

「そういうことするなら、下がって」

「中々見所があるようで」


 貼り付けた笑顔を消した店員の目が光る。こっちも仕事でやってるから、容赦しないよ。

 お財布さんはどうして僕が怒ったのか分かってないようで、黙って店員が示していた宝玉の輝きを見つめている。

 一方、僕に視線を固定した店員。彼の無言の視線を受けて、要求を伝える。


「雷と氷の宝玉、それと調整用の宝玉一つ。良いのない?」

「各属性の宝玉はこちらに取り揃えております。調整の宝玉はあちらになります」

「そう」


 店員が示した場所へ向かう。言うだけあって大小様々な宝玉が並べられている。全てがケースに入れられ、棚に並んでいる。

 一通り値段を見てからとある宝玉を指差して、後ろを付いて来たお財布さんに質問してみる。


「ねえフリギア」

「どうした」

「この一番高い宝玉をさ、二つ買えるほどお金持ってる?」

「ん? この程度でいいのか? ならば」

「わーわーっ! 分かった、分かったよ!」


 なんで余計なことを言おうとするのさ、フリギア!

 けれども藪を突いて変に疲れる僕、ではなく何てことないように言ってのけたお財布さんを見て店員の眼が光ったのを……見逃さない。

 気を取り直してすぐさま、カウンターの奥を指差す。続いて虹色に光る宝玉を指差す。


「あのさ、店の奥に置いてある雷と氷の宝玉持ってきてもらっていい? それと、調整用の宝玉はコレにする」

「なっ? どうしてアレを……あ、いえ、お、お買い上げ有難うございます。各属性の宝玉はしばしお待ちを」

「うん。お願いね」


 店員はお財布さんを上客と判断してくれたようだ。とっておきを一見の客に売ってくれるほどには。

 慌てた様子でカウンターの奥へと引っ込んだ店員とは別の店員が、すぐさま調整用の宝玉をケースから取り出してカウンターへ持ってくる。

 その店員はくるり、と虹色に輝く宝玉を回してとある一点を示す。


「こちら、傷がついておりますがよろしいですか?」

「構わない」


 店員が言う言葉は分かっているので、即答してその口を塞いでおく。割れても保証しかねるとか、魔法の出力を上げたら破損する可能性があるとか、聞いてられないし。

 ケースから取り出された宝玉を見て、自然と顔が綻ぶ。


「綺麗だな……」

「シアムよ、そのだな、性格が変わり過ぎではないか?」

「そう?」


 まだ物珍しさがあるのか、なんか落ち着きがないお財布さん。カウンターにある宝玉を見たり、天井を見たりと忙しそう。

 でも、心当たりないことを言われても困るんだけど。


「尊大な態度といい、上からの物言いといい…地の性格なのか?」

「へっ? 何のこと?」

「まさか自覚がないのか?」

「お待たせしました」

「買った」


 やけに汗を掻きつつ、やってきた店員。彼が持ってきた二個の宝玉を見て、即決。瞬間、カウンターにいた店員共々顔を引きつらせ、僕をまじまじ見てくる。

 お財布さんは不思議そうに店員を見やり、僕の視線は揃った三個の宝玉に集中。虹色と、青と黄色。その三色が照明を受けて輝く。

 店員たちが口をあけて数秒。とっておきの宝玉を持ってきた店員が、震える声を出す。


「お、お値段の方、言っておりませんが」

「これ以上質がいいもの、置いてないでしょ。なら買う」

「…お買い上げ、有難うございます」

「値段は?」

「さ、さようで。ええと、ですね」


 必死に笑みを浮かべようとする店員が余計なことを言う前に、釘を打ち込む。

 つまらないことで、時間とりたくないからね。


「いいよ、好きな値段言ってみて。それでこの店が分かるし」

「……勉強させていただきます」

「いくら?」

「こちらで」


 宝玉から顔を引き剥がし、震える手で提示された金額を一瞥する。

 僕の答えは一つ。


「却下」

「…こ、こちらで」

「あのさ、店員の格好して無知な客を貶して、楽しい?」

「こ、降参です……ハイ」

「妥当、かな」

「申し訳ありません!」

「別に謝られるようなこと、してないけど?」

「すいませんでしたぁああっ! こちらでお願いいたしますぅぅうっ!」

「ねえ、何で謝るの? 全く分からないんだけど」

「大変申し訳ありませんでしたぁっ!」

「お前、恐ろしいな。半値以下だぞ……」


 何故か僕から距離をとるフリギア。なんだろう、その、間合いを測るような足取り。

 店員の格好をした店長の態度もよく分からないけど、フリギアも良く分からない。


 …変なの。


「こ、こちら、こちらでご確認お願いしますっ!」

「うん、有難う」


 けど、質の良い宝玉が手に入るから、どうでもいいや。

 自分でも分かるほど気分がいい。思わず緩む笑顔で手を……お財布さんへ差し出す。


「さ、フリギア。払って」

「あ、ああ…」






 各種設定については、思いつきで入れている部分があるため、矛盾した表現があるかもしれません。

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