●第6話(仮)
黒丸表示は、話の切り替わりのようなモノを示してます。
「いやあ、日が落ちきる前に着いて良かった良かった」
「うんそうだね」
「あれ? シアム、なんか疲れてない?」
「き、気のせいだよ」
フリギアやドゥールの嫌がらせに、そしてミノアの怨みに満ちた視線に耐えること、数時間。
日が落ち始めた頃、ようやくツァイスの町に到着!
……長かった。本当に、長かった。
身体はそんなに疲れてないけど、どうしてか引きずるようにして動かしてた足を止めて、町を観察する。
どこの町もそうだけど、入り口には魔物や不審者の侵入を防ぐために柵が設けられていて、装備を固めた守衛兵が複数人立っている。
彼らの肩越しに、のんびりと家路につく人の姿が見える。見る限り、特に問題はなさそうな感じ。
でもって、守衛たちに視線を戻す僕。
職業病に近いけど、どうも彼らの装備が気になって仕方ない。
「なかなか使い込まれてるし、手入れも…丁寧に使われてるみたい」
「どうした?」
じっと衛兵を見つめてたのがヨロシクなかったみたいで、すかさずフリギアが声をかけてくる。
鋭い視線は元来のものなんだろうけどさ……それでよく『商人』を名乗ったね。
特段隠すことでもないから、守衛さんたちを指差して応じる。
「ちょっと守衛さんたちの装備が気になって」
「なるほど。確か、この町は真面目に職務をこなしていたか。詰め所も覗いたが、武器の手入れも良くされていたな」
「だよね! フリギアもそう思…」
同じような感想を持ったフリギアに頷きかけて、自制する。
「どうした?」
「なんでもないよ…」
危ない危ない。このまま頷いてたら、世間話に紛れて余計なことを知っちゃうところだった。
フリギアの青い目が、僕を見て細くなる。楽しそうで、何よりです。
そのまま、フリギアの目は横にスライドしていく。
「さて、入るか。ミノア、ドゥール」
「うん」
「はいはーい」
先にフリギアたち三人が詰め所の方へと向かっていく。疲れを全く見せないフリギアと、箱を抱え上げたままのドゥール、そして二人の後を静かに付いて行くミノア。
僕の予想通り、どこからどうみても『商人』のフリギアたちは顔パスで、それも守衛さんたちに頭を下げられつつ中へ入っていく。向こうも、それが当然といった感じです。
…商人にしては荷物の量が少な過ぎるとか、守衛さんが尊敬の眼差しを向けてるとか、僕は気付いてない!
彼ら三人の姿がなくなったところで、僕は一人で詰め所へ。
「どもども。今日は冷えますねえ」
「ああ、冷えるな。見ない顔だが、どこから来たんだ?」
フリギアたちには頭を下げてたけど、友好的な守衛さんは手のひらを差し出す。ささくれ立った手へ、僕は旅の必需品、身分証を置いて指を指す。
「アインの方からです。ちょっと流れの鍛冶をやってまして、今回はこの町のお世話になろうかなあって」
「鍛冶? にしては荷物が少ないような……それでよく森を越えられたな」
不審、とまではいかなくても、少し納得がいかないといった表情を浮かべる守衛さん。当然だよね。なにせ、無一文君ですから。
ということで、僕は警戒心を和らげてもらうために、瞬時に考え付いた話を展開する。
「実はですね、道中山賊さんに出会って身ぐるみ剥がされたところを、親切な商人の方に助けてもらいまして」
「商人? ああ、フリギア様たちのことか」
「さ、さあ。僕は商人の方に助けてもらっただけで、お名前までは…それで、道具はほとんどなくなってしまったんですけど」
フリギア『様』。もう、余計なことばかり耳に入ってくるんですけど!
中で待ち構えてる、ニヤニヤ笑いが似合うドゥールを見なかったことにしておく。エルフって耳がいいから、今のやり取りも丸聞こえだろうなあ。
「なるほどな。あの方たちに会えて良かったな。ほら、許可証だ。なくすなよ」
「有難うございます」
「なんとか立て直せるといいな」
「そ、そうですね…」
納得の表情を浮かべた守衛さんから身分証を返してもらう。突っ込まれた質問をされないとか、フリギアたち信用されてるのさ。
色々突っ込みたいことはあるけど、まずは町の中へ。
「ううん…疲れたあ…」
見回してみると、街中は所々明かりが落ちた石造りの建物が並び、かなり雑に敷き詰められた石畳が広がっている。
流石に夜ということもあり、酔っ払いや酔っ払いになりに行く人が多い。
「ん?」
待て待て。もしかして、僕が必要としてる鉱石関係の店、閉まってるんじゃないの?
慌てて引き返して、守衛さんに確認してみる。
…やっぱり閉まってるそうな。苦笑いされちゃったんですけど。
何をしてるのか、と言うフリギアたち三人の下に行き、事情を説明。
「…朝一番で買いに行くからね!」
それで、君たちとの関係は終わりだからね!
「ああそうだな」
そんな僕の決意を軽く流し、辛抱強く待っていたフリギアは心配そうに訊ねてくる。
「それよりシアム、宿はいいのか」
「や、宿?」
「ああ。無一文なのだろう?」
これは、危険だ。慌てて手と首を振る。全力でのお断りの図。
「平気平気。心当たりあるし」
言った途端、ドゥールが露骨に残念そうに見えない笑みを浮かべる。
逆に、ミノアは睨みつけてくる。
「えぇ? 一緒に警備隊の宿舎に泊まらないの?」
「あーあーあー! じゃあまた明日、入り口の前でね!」
「杖」
「明日まで待って! それじゃあね!」
これ以上厄介なことに巻き込まれたくないのです。とっとと退散させて下さい。
それに文無しと言っても、本当にお金がないわけじゃないし。宿に二、三日泊まれるぐらいは隠し持ってます。えっへん。
「だ、大丈夫だよね」
不安になって念のため背後を確認してみたけど、幸い、フリギアたちは追いかけてくる素振りもない。
既に三人の姿は無いから、どこか泊まれる場所に向かったんだろう。
…何か裏があるって思うのは、疑い過ぎかな?
「きっと疲れてるんだ、うん」
頭を振って気を取り直して。そこそこ賑わってる夜道を一人、歩く。
目指すは夜の中心、酒場。情報はいつだって、そこにある。なんて言ってみる。
「ええと…」
初めて来る町だけど、酒場の場所を確認するのは簡単。
数人が連れ添って入っていく場所、酔っ払いたちが覚束無い足取りで出てくる場所を確認して、中へ入る。
「らっしゃーい!」
「どもども」
入った途端、威勢が良い声が掛けられる。
明かりと、料理の良い匂い、アルコールの匂いが混じった空気がまとわりついてくる。
そこそこの入りを見せてる酒場っぽい。空いてる席がほとんどないし。
「よっこいせと」
笑顔で接客をこなす、ふくよかなオバサマの横をすり抜け、テーブルでジョッキをぶつけ合う男たちの間を抜けてカウンターに向かう。
風格漂う椅子に座って、これまたふくよかなオッチャンに声をかける。
「オッチャン、適当に一杯よろしく!」
「あいよ! 何かつまみはいるか?」
「まだいいや」
「ほらよ」
声と同時に音を立てて置かれたグラス、そこに注がれた黒色の液体を飲む。
その冷たさと馴染みのある味に、ようやく解放されたことを実感。
「うん! 美味い! 疲れたあ…」
「だろう?」
恰幅のいいオッチャンが、僕の言葉に顔をほころばせる。その背後では、二人の店員が楽しそうに鍋を振るっている。
よくよく見れば、ささいなケンカは客同士でいさめあう客層といい、この酒場はアタリだ。僕の直感がそう言ってる。
ということで、早速カウンターに肘を突いて調理中のオッチャンに質問してみる。
「ねえオッチャン、初めてこの町に来たんだけど、安くてご飯が美味い宿知らない?」
「安くて旨くていい宿だぁ? ああ、ウチのことか!」
「確かに旨いぜ! お代わり頼むわ!」
「世界一ってか!」
「お世辞言っても、何も出ないからな!」
「ちぇっ」
オッチャンがご機嫌に笑えば、周囲もはやし立てる。うん、いい雰囲気だ。
思わず頬が緩む。
「そっか。じゃあまず、一晩いい?」
「あいよ! 会計は別のモンが担当してるから後でな」
「うん。あ、それから、この辺りで精霊石が落ちてたとか、鉱脈、鉱山があるとか、そういう話ない?」
「精霊石?」
「石だぁ? ああ、一応西に鉱山はあるが…遠いぞ?」
オッチャンの疑問の声に、近くでオバサマにメニューを頼んでたオジサマが反応する。
確認するために見れば、赤ら顔で、機嫌良く腕を振るう。
対面に座ってたオジサマも、何度も首を縦に振ってる……これは、寝そうになってるだけだね。
「精霊石ならよお! 小石サイズのがさ! 近くの川でとれっぞ!」
「本当にっ? 何色だった?」
「確か……黒! そう、黒だぜ!」
手を叩いて笑うオジサマ。大きな声だったからか、周囲が反応してくれる。
「おうおう、精霊石だろ? なんか腐った色だったな!」
「この酒みたいな、ってか!」
「お前、言ったなあ」
「うわっ、やべっ! オヤジ、嘘だよ! う、そ!」
黒かあ。珍しいなあ。
カウンターのオッチャンに謝り倒すオジサマを見ながら、更なる確認を取る。
「その川って、本当に近いの?」
「おう近い近い。なんせガキ共が遊び場にしてるぐらい近いってよ。魔物も近づいてこないしな!」
「なんだ、兄ちゃん、興味あんのか?」
「ええ、とっても! 明日にでも見に行きたいぐらいだよ」
生活がかかってるから、とってもどころじゃないんだけど。
僕の懐の寂しさを解ってくれたのか、別のテーブルから声が上がる。
「ならお得な話、教えてやんよ。あの川よ、たまに美人なネーチャンが水浴びしてるってよ! お得だろう?」
「はあ? そりゃテメエのツレじゃねえのか?」
「ちげえよ! ガキ共が見てるってうるせえのなんの」
「ああ、なんか聞いたことあんなあ。ネーチャンかどうかは知らんがな!」
「へへっ、羨ましいこった」
「それって昔からですか?」
疑わしさ満点の話だけど、一応訊いてみよう。
と、やっぱり誰だか知らないオジサマが手を上げつつ応じる。
「昔はババアの水浴び場だったけどな。ま、ネーチャンの水浴びってのは最近ことだな。注文頼むわ!」
「ババアの水浴びとか、しらけさせる気か!」
「うえぇ、想像しちまったじゃねえか!」
どっと場が盛り上がる。まあ、このぐらいでいいか。
最後に、カウンター奥で調理し続けるオッチャンに声を掛ける。
「オッチャン、何か熱いもの食べたいんだけど、ある?」
「なんだ兄ちゃん、飲んでるくせに飯食ってねえのか」
「そうそう。だからお腹減って仕方ないんだよね。お願いしてもいい?」
「任せとけ!」
すっかり忘れてたけど、今更空腹だってことに気付く僕。
なんだか、オッチャンが神様に見えるから不思議だ。
「とびきり熱いのお願い! あ、あと鉱物売ってる店知らない? 多少高級な店でもいいんだけど」
「鉱物? ま、今は飯が先だな」
「うん、お願い」
洞窟にいたせいか、まだ全身が寒さを感じてるような気がする。
「あ。服、焦げたんだっけ」
気のせいじゃなかった。暗くて今まで気にしなかったけど、服が焦げてたんだった。
うう……鉱物だけじゃなくて、服も調達しないと。
でもまずは、熱い熱い料理を待とう。
つらつら書いているので、いまいち話の変わり目がはっきりしない。
そんな自身のために、黒丸表示を取り入れています。