表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第2話(仮)

「ところで、何故シアムは無一文なのだ? いや、それ以前にどのように生計を立てているのだ?」


 尤もな疑問は、歩き始めてすぐに飛び出してきた。

 前を歩く小柄なミノアから殺意が漏れ出してるのが、怖い。ちなみに、先頭を歩くドゥールは山賊をちまちま苛めて楽しんでいる様子。


「僕が無一文なのは、欲しいものが高価だったからで。生計はコレで立ててるよ」


 そういって短剣が収められた鞘を軽く叩けば、フリギアは察したように頷く。


「ほう。観賞用の武器職人か」

「えっ? 違うよ。普通に武器職人」

「…本当か? すまんがそのナイフ、見せてもらっても構わないか?」

「はいどうぞ」


 鞘から短剣を抜き出し、柄を差し出す。とはいえ、これは殺傷用の短剣じゃあないから刃を持っても怪我しないけど。

 ただ、それがフリギアの不審を買ってるわけで。


「本当に飾り……いや、これは…」

「いいんだよ、フリギア。これ、切れない短剣だから。でも、僕が始めて作ったものだからね、お守り代わりに持ってるんだ」

「なるほど。すまんな」

「ううん」


 短剣を返してもらい、鞘へ戻す。となれば、次にされる質問は決まってる。

 フリギアは僕を上から下から見て、口を開く。


「ならばアインスの町での買い物とは、鉱物か?」

「そうそう。これこれ」


 頷いて服を捲り上げる。そして、腹部にくっつけていた青色の板を取り出す。大きさは胴体より一回り小さい程度。

 透き通った青が森から漏れる光を浴びて輝く。何度見ても惚れ惚れする輝きだ。


「ううむ。我ながらいい買い物をしたもんだ」

「それが何なのか分からないが……シアムよ、何故、そこに隠した」

「あれ、分からないの? えっと、これ、水の精霊の加護を受けた結晶だよ。この大きさなら、立派な剣が一つ作れるんだよ! 

 それから、別に隠したわけじゃなくて。鎧代わりに着てたんだけどさ、やっぱりちょっと動き辛いね」


 原石でも頑丈な水の精霊石を再度腹部へ戻し、服を直す。フリギアはそんな僕を見て、肩を振るわせて…笑う。


「お前は本当に面白い男だな!」

「そう?」


 自分では良く分からないけど。フリギアは顎に手をあて、興味を惹かれたように僕を見下ろす。


「あのナイフでは鍛冶の腕は分からんが、落ち着いたらお前に一本打ってもらうか」

「別に構わないよ。剣でもロッドでも弓でもなんでもどうぞ。助けてくれたし、フリギアたちなら材料費だけでいいよ」

「金なら払うぞ」


 さすが商人………うん、商人!

 意外としっかりした言葉に、営業スマイルを浮かべる。そして両手をもみもみ。


「僕は助けてもらったんだから、当然だよ。遠慮しないでいいって」

「意外と義理堅いのだな」

「えへん」


 褒められ、胸を張る。


「調子いい奴め…ドゥール、ついたか」

「うん! そうみたいだねえ」

「…死ねばいいのに」


 最後の言葉だけ聞かなかったことにし、三人にならって山賊さんのアジトとやらを観察する。

 見た目は普通の洞窟っぽい横穴。といっても地面を見れば人の足跡が沢山ついている。意外とがさつだったり?

 その周囲は偽装のためか、巨木や蔦で取り囲まれている。

 なんというか、いかにも……


「…アジトっていうか、魔物の巣?」

「巣をそのままアジトにしたんだってさ! 安全だけど、頭悪いねえ」


 正直な感想は正しかったらしい。

 エルフの少年はキツイことを言いつつ、調子外れの鼻歌を歌いながら、いい感じの木に山賊を縛り付ける。

 さすがに抵抗している山賊を見ながら、フリギアは指示を出す。


「俺が先頭でミノアは罠の警戒と照明を頼む」

「……」


 僕を視線で射殺そうとする少女。顔が無表情だから、かなり怖い。

 それでも持っていた杖の先端に光を灯し、大人しく待機している。フリギアは呆れたように首を振る。


「ミノア、シアムを殺そうとするな。ドゥールは最後尾で挟撃の警戒」

「はぁい!」


 遠足にでも来たかのような返事。エルフの少年は手を上げて元気に返事をしていた。

 フリギアは最後に、僕を見て…


「シアムは何か面白いことでもしていてくれ」

「なにそれっ? どゆことっ?」

「行くぞ」


 僕の抗議を無視し、フリギアはずかずかと洞窟へ足を踏み入れる。続くミノア。


「シアム、面白いこと期待してるからねえ」

「期待されても困るよ」


 ううむ……また少女の、殺気にまみれた背中を追うことになるのか。肩を落とし、彼女の後に続く小市民。

 最後に楽しそうなドゥールが弓を手に持って、僕の背中を叩く。


「うわぁ…さむっ」


 洞窟に入った途端、全身に冷気が吹き付ける。コケだらけで、時折滑りそうになる。

 ミノアが灯した魔法の明かりと、洞窟の壁につけられた明かりのお陰で視界には困らないけど、気をつけないと…


「ミノア、ドゥール。残党の始末と、奪われた品物の回収だ。気を抜くなよ」

「みんな、死ねばいいの」

「僕、ここで死ぬかもしれない。ああ、折角結晶を買ったのに…」

「シアムはオレが守るから大丈夫!」

「…気を抜くな、といったはずだがな」


 言ったそばから賑やかな面子に、けれどフリギアは怒りはしない。

 多分、僕がいなくても万事こんな感じなのだろう。どこか諦めを含んだ声が、それを物語っている。苦労してるみたい。


 奥に行くにつれ、壁に水滴がつき、温度が下がっていく。寒い寒い、と腕をさすれば、少年に心配される。


「シアム、大丈夫?」

「まだ耐えられる……ねえフリギア。ちなみにここって何の魔物の巣だったの?」

「確か火トカゲ、ファイアリザードの巣だ。結構な大物だったらしいな」

「だろうね。縦も横も余裕あるし……ううさぶ…」


 火トカゲなのに、洞窟が寒いとはこれいかに。疑問に答えてくれたのは、意外にも殺気に満ちたミノア女史。


「燃え尽きればいいのに。リザードは暗くて湿度が高い場所が好き。閉所恐怖症……窒息すればいいの」

「そうなんだ」


 最初と最後に恐ろしいことを言われたけど、納得できました。最初と最後……僕に向けて言ってないよね?


「ファイアリザードかあ。オレの矢じゃ燃え尽きるね! でもさ、倒してみたいよねえ。シアムもそう思うでしょ?」

「そういう不吉なこと言わないでっ?」


 振り返れば、残念そうに自分の弓を見つめる少年。

 全身に火を纏ったファイアリザードなら、ドゥールが持ってる木製の矢なんて瞬時に灰になるだろうけどさ。


「一本道か。幸い、リザードも山賊どもも横道など作る余裕がなかったようだな」


 壁に手をついていたフリギアが言えば、ミノアも暗鬱な表情で頷く。


「罠がないの。知能が低そう。発動させたかった」

「ちょっ、どうして僕見るのっ? そこまでして僕を殺したいのっ?」

「死んで」

「助けてドゥール!」


 杖を向けられ、思わず背後に助けを求める僕。


「シアムったら羨ましいな。会って数時間もしないのに、ミノアに懐かれちゃってるよ」

「嘘でしょっ?」


 これが好意ってどんな罰ですか!

 羨ましいなら代わってあげますよ!

 涙を零しそうになったけど、フリギアが立ち止まり剣を抜いたので堪える。


「ここだけ扉があるとは……いいな」


 呆れつつ、どこか手作り感漂う扉から距離をとる。


「知能が低いの」


 明かりを消し、呪文を唱え始めるミノア。


「はいはーい。シアムはそこにいてね」


 楽しそうに矢を番えるドゥール。


「うん、気をつけて」


 頷いて大人しく待機する僕。だって足手まといだしさ。


「いくぞ」


 小さく鋭いフリギアの声に、無言で頷く二人。確認した男は足で扉を蹴破る。どんな一撃か、二つに割れ飛んだ扉の破片。

 複数の戸惑った声と、怒鳴り声が交差する。


 そして、続くフリギアと、氷の矢を宙に舞わせて奥へ飛び込むミノア。素早く獲物を見つけ、矢を放つドゥールもすぐさま中へ飛び込んでいく。

 剣が打ち合う音、怒号と罵声、悲鳴と断末魔。遠目では何が起きているのかよく分からない。それに、怖くて近づけない。


 この先に何人山賊の残党がいるかは分からないけど、こっちは三人。いくらチームワークが優れていても、実力を間近で見ていても、不安で仕方ない。

 手に汗が滲み、背中に冷や汗が流れる。早く、早く終わって。


 怒鳴り声に混じってずずずっ、と低い音が聞こえた。今更罠? と思って周囲を確認しても土壁が広がるだけ。

 それに、今まで一つも罠らしい罠はなかったから、罠じゃあないだろう。じゃあ……なんだろ?


 低い、何かを引きずるような音。


「な、なに?」


 ずずずずず、と徐々に音が近づいてくる。速度も上がってる。

 もんのすんごい嫌な予感で、身体が動かない。確認もとりたくない。


「そういえば、誰も討伐したって言ってなかった、よね?」


 そして、全身に衝撃が走った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ