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●第17話(仮)

 結論から言えば、弓はすぐさま売れましたとさ。

 しかも大変有難いことに、完売。


「まさか全部買ってくれるなんて。ありがたや、ありがたや」


 作ったはいいけど、物が物で。

 だからあまり需要ないかと心配したわけだけど、どうやら杞憂だったようです。


 折角だから、とご好意に甘えて宿屋兼酒場のオッチャンの店。入り口の脇で朝から露店を開いていた僕。

 やっぱり弓は、いや、素性も知れない僕が扱ってる武器なんて誰も気にせず、昼までノンビリ日光浴を楽しんでいると…

 精霊さんがいるあの森で狩りを終えた狩人ご一行が、たまたま僕の露店に目を留めてくれまして。

 最初は冷やかしのつもりだったんだろうけど、何人かが即席で作った弓を引いて、振ってみて。


 なんだか真剣な表情で話し合うこと数分。


「…全部?」

「ああ。無理そうか?」

「いえいえっ! それは有り難いけど…」

「今使ってるコイツと同じか、それ以上の質だな。アンタ、一体どんな材料を使ったんだ?」

「ひ、秘密です……アハハハハ…」


 まさか、お客さんたちが狩りに入った森に落ちていた枝です、と言えるわけもない。

 盛大な誤魔化し笑いをする僕に、だけども、狩人ご一行は理解したといわんばかりの表情で頷く。


「ま、当然だよな。で、値段は? これでいいのか?」

「ええと、まとめ買いだから…」


 割引させていただきます、と値段をやや低くして提供。


「買ってくれて有難う!」

「アンタこんな良いもん作れるのに、店ねえのか?」


 背後で僕が作った弓を、楽しそうに振り回すご一行。

 支払いを済ませたまとめ役っぽいオジサンが、疑問の表情で質問してくる。


「ま、まあ…流れの鍛冶…ええと武器屋なんで」

「なんだ。勿体ねえな。この町に店作っちまえばいいだろうに」

「お、お褒めイタダキ恐縮でっす。さ、ささ! 酒場で昼食でも」

「ああそうだな! お前ら、いくぞ!」


 そうして、団体様は酒場へ消えていきましたとさ。


「………」


 なんとなく路上を眺め、首を振って気持ちを切り替える。まずは、露店の片づけをっと。


「なんか呆気ない……でも、こんなもの、かな」


 酒場のオッチャンには、すでに町をでることを断っている。残念そうな顔をされたけど、日持ちのする食料を分けてくれた。とても親切。

 あとは、とっとと町から出るのみ。あの三人組もいないことだし、先の村を目指して見てもいいかもしれない。


 …色々考えたけど、やっぱ戻るより、進みたいんだよね。


「小さな村なら、フリギアたちも素通りするだろうし。大規模な鉱山があるのも、向こう側だしなあ」


 できれば、近隣国の中で最大の鉱山に行ってみたい。

 噂によると、最近、稀少鉱石が発掘されたとかされないとか。


「稀少鉱石かあ…見てみたいし、触ってみたい…よし決めた! 行こう!」


 荷物をまとめて立ち上がり、川がある側とは逆に、先へ進む道へと足を動かす。

 まだ見ぬ稀少鉱石を思い浮かべ、頬が緩む。


 町の出入り口は二箇所。フリギアが顔パスしてくれちゃったアインスの町側と、これから向かう村方面に一箇所ずつ。

 それぞれ警備兵の詰め所があって、内外の出入りを管理、監視しているわけです。

 そう、ここで僕はすっかり失念していた。


 彼らは『国に仕える』と言っていたことを。


 新たな旅立ちに心浮かれたまま、出入り口に立つ兵士へ声をかける。


「すいません、出入の」


 はいはい、と人が良さそうな警備兵サン。その穏やかな表情が驚愕に固まって。

 そして……僕を指差して声を上げる。


「お前はっ? 確保っ! かくほぉぉぉっ!」

「へっ?」


 え? 何? 何が起きたの?

 謎の奇声を上げた警備兵サンの声を聞きつけ、数人の警備兵サンたちが集合。


「なんだっ? どうしたっ?」

「ほい?」


 理解できないまま、事態は進んでいく。


「あ、アイツはっ!」

「え、ぼ、僕、ですか?」


 出るわ出るわ、警備兵サンが集まり、取り囲まれる。

 なんでっ?


「ちょ、ちょっとま、まっ!」

「兵舎まで来い!」

「えええええっ? な、何っ? 何ですかっ?」


 槍やら剣やら突きつけられ、何がなんだか分からぬうちに町に戻される。

 道中、コイツ何したんだ? 的な視線をもらいつつ、訳が分からないまま歩かされること数分。


 全てに気付いたのは、兵舎の中、とある部屋へ連行され、優雅に椅子へ腰かけ…机に肘を突いて勝ち誇った笑みを浮かべたフリギアと目が合った瞬間。

 悪意滴る笑みを浮かべたフリギアは、悪の風格を漂わせて、緊張で固くなる警備兵サンたちへと視線を向ける。


「ご苦労だった。職務に戻りたまえ」

『はっ!』

『失礼いたしましたっ!』

「うむ」


 一糸乱れぬ敬礼をした警備兵サンたちを労い、悪の笑みを浮かべるその男。

 僕の目の前に、悪の親玉がいる現実。背筋に冷たいものが這い上がってくる。


「フ、フリギア……どうして?」

「さて、シアム。久しぶりだな。元気にしていたか?」

「あ、あああっ! そういうことっ! ひ、酷いぞっ! 権力を一市民に行使するなんてっ!」


 騙されたとか、酷いとか、色んな感情がごちゃ混ぜになって泣きそうな僕。

 なのに、そんな僕を見てフリギアはしてやったり、と悪の笑いを響かせる。


「ははははは! 何を言う、我らにあのような魔物をけしかけておいて」

「あのね、それ、もう終わったことでしょ! 町の出入り口を封鎖しといて! 恥を知れ!」

「お前にそれを言われる筋合いはない。必要とあらば、このフリギア、手段は選ばん」


 いくら『国』と関わり合いがあると言っても、町の警備兵を手駒に使うって、それ、越権行為じゃないですかっ?

 ていうか、悪人面がとっても似合ってるんですけど!

 いやいや、なに感心してんの僕! 慌てて机を叩いて抗議する。


「手段は選ぼうよ! っていうか、フリギア悪人すぎる!」

「お前にならば、どこまでも悪人になってやろう」

「違うっ、このフリギアは偽者だっ! 僕が知ってるフリギアはこんなこと…言わないと思う!」

「ほう。面白いことを言う」


 小さく笑ったフリギアは、流れるような動作で立ち上がる。そのまま机を迂回して、僕に近づいて…


 剣の柄に手をかける。


 あれ? もしかしなくても、戦闘態勢ってやつ?


「え? 嘘っ、うそうそっ?」

「さあ選択の時だ。シアムよ、俺は心が広い。お前に選ばせてやろう」

「ソレ絶対選択肢ないでしょ! やだ! 僕は選ばない!」

「やれやれ。俺の寛容な心を疑うとは……いい度胸だな」


 鞘走りの音が聞こえたと思った瞬間、剣の切っ先が目の前に。

 全っ然、剣の動きが見えなかった。


「ひっ?」

「さあ、選べ」


 全くぶれることのない、白刃の切っ先が僕に向けられる。

 悪の化身と化したフリギアは、悪魔の笑みを浮かべたまま。


「俺に拉致されるか、俺に連行されるか」


 低い声が、なぶる響きを帯びる。

 け、けどっ! こ、ここで屈しちゃダメだ、僕! 小市民には、小市民のプライドがあるのだ!

 凍りつく口と頭を動かし、精一杯の抵抗を試みる。


「一緒じゃないか! っていうか拉致って何っ? それ、『国』のやることじゃないでしょ!」

「良いのか? 時間はあまりないぞ? どうする?」

「ぼ、僕の話を聞いてよ! きょ、拒否! 選ばない、っていう選択を選びます!」

「そのような選択肢、用意した覚えはないが?」

「え、と…ええと…ええ…と…」


 周囲に、特に部屋の外に助けを乞おうとするも、何故だか誰の気配もしない。

 僕の行動などお見通しとばかり、目が合ったフリギアは嘲笑する。

 それでも、剣先が固定されたように動かないのは、さすがというか……僕に向けなくてもいいじゃないか!


「安心するが良い。人払いをしておいた」

「く、くそっ! た、助けて、だれかぁ!」


 僕の必死の叫びも、部屋に虚しく響くだけ。フリギアは心底愉快そうに嗤う。


「ああ、言いそびれていたが、この兵舎は俺の支配下にある。誰もこの俺の命令なく動くはずがなかろう? なぁ?」

「酷いぃぃぃっ!」


 本格的に僕を拉致する気だよ、この人!

 何か根本的に、格とかそういうのが違いすぎる。


「さあ、どうする?」

「ぼ、僕は絶対に、絶対に付いていかないからね!」

「シアムのくせに強情な。我々についてくれば、富も名誉も思いのままだぞ? お前は、それを捨てると?」

「ほ、本当に悪人役が板についてる…」


 全身冷や汗だらけ。剣を向けられて、小市民な僕はどうすればいいんですか? 誰か教えてください。

 手馴れてる感溢れるフリギアは、そんな僕の精神状態を分かっているのだろう。


 止めとばかり…ニタリと、嗤う。


「哀れなシアムよ。時間がないぞ?」

「だ、か、ら! 僕は行かない! 何を言われたって君たちと一緒には行かない!」

「そこまでいうか…」


 再三の抗議を受けたフリギア。肩をすくめて剣先を収める。


「へっ?」


 割と未練もなさそうな態度に、肩透かしを食らったような。

 ともかく、目の前から脅威が去ったので、少し安堵。緊張が解けてため息が零れる。


「…わ、分かって、くれた、んだよね?」


 もちろん、分かってくれなかった。

 なにせ、剣を鞘に戻したくせに、目の前の悪魔は邪悪な笑みを浮かべていたのだから。


 ああっ、なんてこった!

 僕は何を期待してたんだよっ! あのフリギアじゃないか! 絶対諦めるはずがないじゃん!


 僕の馬鹿ぁぁぁっ! 考えなしぃぃっ!


 後悔で胸一杯の僕。フリギアはそれはもう、愉しそうに僕の背後へ声を張り上げる。


「こればかりは使いたくなかったが、仕方あるまい……ミノア!」


 バンッ、と派手な音を立てて部屋の扉が開かれる。

 突然の音に驚く僕。続いて、全身に小さな衝撃が走る。

 顔を向けると…そこには小柄な少女の体と、僕が改良した杖が。


「シアム、死ぬ?」

「ちょっ? ミノアっ? 離してぇええっっ?」


 僕の腹部に小さな手が回される。相変わらず人形のような整った無表情でこれをやられると、結構怖い。

 でもって、心身共に危機を訴えている、この現状。

 とても、マズイ。


「離したくないの」

「いや、その、絶対嫌な予感しかしないから、離してくれると、とっても嬉し…」

「死ぬの?」

「違うって!」


 振りほどこうも、相手がミノアだから怪我させちゃうかもしれないし、手を出せない。

 これがフリギアなら、全力で暴れてやれるのにっ!

 目の前で悪い笑みを浮かべたフリギアを半泣きで睨みつける。視界が滲んでくる。


「ミノアを使うなんて、卑怯者めっ! 酷いっ! 怨むよっ!」

「ふははははっ! お前の恨みなど毛ほどない! 存分に恨め!」

「もちろん怨んでやるっ! 覚えてろっ!」

「ああ、覚えておこう」

「フリギアのバカァァァッ!」


 そしてミノアの魔法が発動。

 

 強烈な眠気が襲い掛かり、僕の意思とは関係なく……意識が落ちた。





 1:今回付けた●印について、「話の区切りが悪くないか?」と思った方、正解です。話の展開からして、次話に付けるのが妥当なのでしょうが、色々事情がありまして。申し訳ないです。


 2:12月22日現在、とうとうユニーク数が千を超えて感謝の極みです。延べ人数で四桁の方に目を通していただいて…四桁…実感が沸かない今日現在です。


 後書き垂れ流すなよ、と言う方…すいません、これが性分なもので…了承ください。

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