第16話(仮)
「さて、と! 次は逃げる準備を整えないとね!」
気を取り直して、誰の気配もない池を後に。漆黒の大剣を持ったまま来た道を戻る。
次の目的地はフリギアたちの行き先とは間逆の町! にするのはいいんだけど…お金ない。
路銀を稼がないとマズい。
…やはり、世の中お金ということですか。世知辛いデス。
そろそろ日も落ちて危険だからと、早く町へ戻るよう精霊さんに言われた。けど、森を軽く探索。
少し期待してたけど鉱物はない感じ。残念。
けど、森というだけあって当然木は多い。中にはかなりの年月が経ったものもあって、材料としてみればそれなりに…
そこら辺をうろうろしていると、僕一人では囲いきれないほどの直径をした木を発見。そして、そこかしこに落ちている枝をじっくり観察。
「このぐらいの太さなら弓、作れる、かな? うん、やってみよう!」
地面に落ちていた大振りの枝を手に取り、形成していく。
あっという間に変形して出来上がった弓に、近くの幹に巻き付いてた適当な蔦を強化して、弦代わりに接着して、と。
うんうん、見た目は弓っぽい弓が完成!
「さてさて…」
何度か弦を引いてみて、しなり具合とかを調整してみる。
…僕自身は弓を使えないから、勘だけど。
「ちょっと脆いけど、弓自体武器にするわけじゃないし! 狩りをする分には問題ないかな。よし、後四個ぐらい作って帰ろう!」
大振りの枝を捜し、弦の材料を探し、途中で程よい熟し具合の木の実を発見して食べつつ、作業を続けること数時間。
最後の一個を作り上げて、心地よい疲労感に包まれた中、気付いた。
周囲はすっかり暗くなってたけど、町の明かりが見えるから迷子にはならない。
けど。
「そういや、僕、元々……ああっ、鞘! ご、ごめんよ! 今から作るから!」
一番の目的、大剣の鞘作りをすっかり忘れてた!
慌てて地面に置いてた大剣へと頭を下げる。全然気にしてない、その懐の広さが申し訳なさを倍長させる。
「も、もっと怒ってもいいのに、本当に優しい……ううぅ」
立派な鞘はまた後で絶対に作ろう、そうしよう。
作りあげた弓を肩にかけ、大剣を掴み、手ごろな低木、もしくは枯れかけた木を探す。
暗いけど、暗いけど頑張るから!
「よしこれで! とりゃぁああっ!」
それなりの太さで、それなりに朽ちかけたと思しき木に向けて、漆黒の大剣を振るう。
感じるのは空気を切り裂いたような、非常に軽い手ごたえ。そして続く、倒木の音。地響き。
なんか動物たちが逃げ出してる気もしないけど、早速加工加工……
「こ、これでいい、かな?」
数分で枯れ木っぽい木が、つるりとした表面をした、大剣の鞘へと生まれ変わる。
一時的な鞘とはいえ、表面に細工をしたい。けど、手元が暗すぎてさすがに無理。
「また新しいのを作るから、それまで我慢してくれよ」
声をかけつつ大剣を収納して、背中にくくりつける。元々背中にしまってた精霊石は、腹部へ回しておく。
とっても簡易な鞘だけど、背中からものすごい喜びの声がするのが…分かる。
本当、ごめん……
「と、とりあえず目的完遂…オッチャンの宿屋? 酒場? に戻ろう、うん」
罪悪感で少々早足になりつつ、町へ戻ります。冷たい風が、心に沁みる…ううっ。
「ど、どもども…」
「おお、兄さんお帰り。遅かったじゃないか」
「ちょっと森を見てたら、ね」
「ああ。魔物が出ないとはいえ、あまり遅いのは危険だからな。今度からは注意してくれ」
帰りが遅かったとはいえ、町の出入り口を守っている守衛さんに不審がられることもなく、町中へ。
道に沿って点々と照明代わりの特殊な燭台が立っていて、中では火が燃えている。
「さて、と」
町に入ったからって油断しちゃあいけない。外とは別の危険、いつ、何時フリギアに遭遇するか分かったものじゃないのだ!
漆黒の大剣を背負った人間なんて、この町じゃあ僕ぐらい。それを目印に探される可能性もあるし。
もっと大きな町や都にいけば、ギルドなんてものもあって、物騒な装備をしたオッチャンが沢山群がってるらしいけど…生憎ここはそこまで大きな町じゃないのです。
左右をきょろきょろ見回し不審な人物がいないことを確認し、建物の影からこっそり人影の顔を確認しつつ、酒場へ向かう。
うん、不審な人物はいなかった!
「きっとフリギアたち、僕を諦めて町を出たんだろうな」
酒場発見! と、ここで焦っちゃ駄目だ。
慎重に酒場の窓から、中にいる人たちを確認。よし、見知った顔はないね。
これで堂々と中に入れる。ああ、疲れた疲れた。
「らっしゃーい。お、兄さんじゃないか。どこ行ってたんだい?」
「どもども。ちょっと、色々とね」
ジョッキを何個も持ったオバチャンに挨拶して、がら空きのカウンタ席へ向かう。
そこで鞘に入った大剣と、出来たての弓を立てかけて、奥へ声をかける。
「オッチャン、何か食べ物ちょうだい!」
「戻ってきて早々、それかい。元気なこった」
苦笑しつつ、早速僕のために夕飯を作ってくれる優しいオッチャン。
ついでにお酒が置かれる。それに手を伸ばしつつ質問する。
「色々やってきたから、疲れたよ。ところでさ、ここって露店開くのに許可、いる?」
「許可ぁ? んなもん、いらんよ。変な場所で開かなきゃ、大丈夫さ」
オッチャンが大声で返してくれれば、周囲がそうそう! と同調する。
なるほど、と頷いていると数人のオジサンが興味を引かれたように、赤ら顔で僕へ好奇心に満ちた目を向けてくる。
「なんだい兄ちゃん、売りモンでもあんのかぁ?」
「うん! この弓なんだけどさ」
「へえ……ふうん、ニイチャン武器商人だったんか! へえ…見かけによらねぇなぁ」
「でっしょう?」
「だから精霊石やら鉱石の場所を聞いてたんか!」
「そゆこと」
酔っ払いに弓を売りつけたくないので、値段交渉等は控える。
「弓五つだけど、売れればそこそこのお金になるからね。それで次の町にいこうかなぁって」
「なんだい、兄ちゃんもう出ちまうんか。残念だな!」
「僕もゆっくりしたいところなんだけど、出来ない事情があってね…うん」
「ワケ有りってか! ハハハッ!」
みんな冗談だと思ってるんだろうけど、こっちは結構切実です。
「おら、出来たぞ!」
「あ、有難う! うん、旨い!」
簡単な炒め物なのだが、旨い。このオッチャン、何を作らせても美味しい。実にプロである。
他の客への料理を作りつつ、オッチャンは話を進める。
「さっきの話だがな、露店開くなら、馬車に轢かれんなよ? たまぁにあるんだよな、酔っ払いが轢かれるってのが」
「酔っ払いって……でも馬車か、馬車…」
「ニイチャン、どこか抜けてっから轢かれそうだよな!」
「ちがいネエッ! 気ぃ付けろよぉ?」
自分でも有り得ると思ったから、酔っ払いたちの忠告には苦笑しか返せない。
と、一人がイイコト思いついたといわんばかり、眉を吊り上げる。
「ならよ! ここン前なら大丈夫じゃねえ? 人通りもそこそこあるしよ」
「そこそこたぁ、何だ?」
即座に返ってきた声に何を感じたのか、慌ててしゃちほこばって立ち上がる酔っ払い。
「だ、大繁盛してるってことっす!」
「確かに。狩人もオッサンの飯食いにくるしな!」
「なにより、馬車が通れないほど狭ぇ!」
「ギャハハハッ! いえてらぁ!」
楽しそうな周囲の意見を聞くと、なんだかそれがベストに思える不思議。
つまみを作り続けつつ、耳はきっちり動いてるオッチャンへお伺いを立ててみる。
「むむ、それは魅力的…ねえオッチャン、店開いていい?」
「どうせ売れねえんだろ、俺の名前でも使って売りゃあいいさ」
「うわひっど!」
すんなり許可が下りたけど、きっと手数料とか仲介料とか場所代とか必要…
と、考えてる僕に、鍋を回すオッチャンの声が飛んでくる。
「手数料もいらないからな」
「えっ?」
「ンなもの取ったら、兄ちゃん、何も残らんだろ? 宿代、払ってもらわねえと、コッチも困るんでな」
「ちょっ? それないよっ! それぐらい、払えるって!」
振り返ったオッチャン、ニヤリと唇を吊り上げて楽しそうに笑う。
「ま、売れるといいな?」
「ど、努力します…」
今回、誤字があるかもしれません。
申し訳ない。