表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

第14話(仮)

「……お早うございます。お早う、ございます?」


 見覚えがない天井と、見覚えがない部屋に向かってお早うの挨拶。


「二度も繰り返さんでいい。ようやく気がついたか」

「へ? あぁっ?」


 でもって、なんか聞き覚えのある低音がしたなと思って振り返ったんですよ。

 そしたら恐怖の権化、フリギアがとてつもなくいい笑顔で椅子に座っていてですね!


 こ、これはまずい!

 かつてないほどの速度で、直前の記憶が浮かび上がってくる。おお、僕の頭が激しく働いてくれてる!

 って喜んでる場合じゃなくて!

 反射で体を起こし、そのまま流れるような動作で頭を下げる。こんな素早い動き、やろうたって出来るものじゃない。さすが僕!

 じゃなくて!


「ほ、本当に反省してますっ! すいませんでしたっ!」


 モチロン分かっていましたとも。謝っても駄目だってことぐらい!

 瞬間、僕の頭を揺るがすほどの衝撃と、部屋を揺るがすほどの怒鳴り声が返ってきました。


「馬鹿者が!」

「いったぁぁっ?」

「何をしでかすかと思えば、対抗手段も持たずドラゴンゾンビを引き寄せるなど!」

「ごめんなさい! まさかあんな大物が釣れるとは思わな」

「思っていたくせに、言い訳をするな!」

「バレてたっ?」

「当然だ!」


 さすがフリギア、僕の考えなんてお見通し。

 でも、ここまで言われっぱなしはなんか嫌だ。

 ……負けん気じゃない、負けん気じゃない!

 フリギアの凶悪な視線を見返し、口を開く。


「でも、あのドラゴンゾンビさ、長いこと腐食のせいれ……腐食の力を吸収してたから、放置してたら完成してたよ?」

「……」

「フリギアも分かっていると思うけど、完成したら陽光の下でも再生するし、なにより、ドラゴンとしての知能が備わっちゃうし」

「……」

「だ、だからさ、ええと、むしろここで引き連れて討伐できて良かっ……てなりませんよね! ごめんなさい!」


 無言の威圧に完敗。いくら精霊さんの頼みとはいえ、即決せず相談すればよかったのだ。


 ああ、馬鹿だ。僕の馬鹿!


 うな垂れた僕の猛反省を分かってくれたのか、フリギアは表面上、怒りを治めてくれた。


「…まあいい。シアムよ、これに懲りて今後一切下らん独断をせんこと! 分かったな!」

「あ、分かっ……え? いや、それ、僕同意できないんだけどっ?」


 うん分かった、なんて頷いたものなら、フリギアたちと一緒に行動することにナリマセンカ?

 危なかった……ナイス、僕の頭脳。

 嫌だと視線で訴えると、フリギアは気付くなよ、と言わんばかりに悔しげな表情を浮かべるし。

 この人鬼だよ、鬼!


「ばれたか」

「ちょっ? 助けてくれたのは有り難いけど、それはないよ!」

「素直に頷いておれば良いものを。お前ほどの鍛冶、確保しておくに越したことはないからな」

「いやいいって! ホント、僕を平穏じゃない暮らしに巻き込まないでっ?」


 平穏、平凡が一番! 改めて思う今日この頃。

 だけど、フリギアは顎で壁を、そこに立てかけられたモノを示す。


「切れないとはいえ、あの剣といい、俺に預けた剣といい傑作ではないか。是非とも国に招待」

「あーあーあーっ!」


 危険な言葉に耳を塞ぎつつ、壁にいた息子たちへと視線を向ける。

 すぐに、二人の『意思』を感じて、慌てる。


「ご、ごめんよ、二人とも! 僕が迷惑かけてごめん! どこも怪我はない? 無事だった?」


 ベッドから抜け出して、漆黒の大剣を撫で、短剣を手に取る。


「二人に迷惑をかけて……寂しい思いをさせてごめんよ」


 心配する僕の身を、二人は案じてくれている。それが嬉しくて、思わず涙ぐむ。


「こんな僕のために、二人とも力を貸してくれたんだね! 有難う…」

「……突然奇妙な行動をとったら武器を人換算し、泣き出すとは。後遺症か?」

「お前には、絶対いい主人を見つけてみせるからね! それまで、僕の傍に居てくれるかい?」


 大剣を撫でれば、元気の良い返事が返ってくる。感激の余り、刀身を抱きしめる。


「こんな親想いの子を持って、僕は幸せだよ!」


 そうなれば、まずは大剣の鞘を作らないと! 今まで抜き身で放っておいて、本当にごめん!

 難しい顔をしているフリギアに、取り合えず質問。


「フリギア、どこかに革売ってる店ない?」

「お前、先ほどまで意識不明だったのだぞ。頭はいいとして、身体に不具合はないのか?」

「え?」

「あれほど血を吐いていたのに、この返事か…」


 全く見当違いの返事を返すフリギア。不思議でたまらない。

 今必要なのは鞘に必要な材料だって、分かってるのかな?


「血? ああ、久しぶりだったけど、仕方ないし。それよりさ、革売ってる店だよ! 知らない?」

「…一発では足りんようだな」

「え? えっ?」


 瞬時に聞こえてきた『声』に反応して、大剣を引っつかんで盾にする。その中心へ、唸りを上げて見事な拳が入る。

 だけど、大剣の干渉力をなめてもらっては困るのです。

 柄を握る手にも衝撃が伝わることなく、僕にはフリギアが放った拳の風しか通らない。


 でも、風を起こすほどの拳なんだよね……危ない…というより、これ食らったら僕が持たないと思うんだけど……


「危ないじゃないか! どうして殴るのさっ?」


 漆黒の刀身から顔を出して確認すると、フリギアは眉を吊り上げ若干お怒り状態だった。

 拳を握り締めて、僕を睨んでるし。


「本当に痛みを感じんな……さてシアムよ。もう一発殴らせろ」

「ど、どうして? あ、もしかして武器に欠陥でもあった? いや、でも、ちゃんと調整したけど…」

「そうだな、殴りたいというのは俺の我侭だ。さあ、顔を貸せ」

「ちょっと、なにその理由! お、お断りしさせてもらいますっ! それに、店が無いって言うなら自分で採りに行くまでっ!」

「待て! 誰もそのようなこと、いや、お前、そこは窓…」

「じゃあね!」


 壁際の窓を開け放ち、片手に大剣を、もう片手を枠にかけて身を外に躍らせる。結構高所だったらしく、見下ろすと地面まで距離がある。

 でも焦ることはない。自由落下中に大剣を持ち直して、切っ先を地面に向ける。

 そのまま体が衝突する前に漆黒の切っ先を地面へ突きたて、衝撃を吸収させれば……完璧!


「よっし、探しに行こう!」


 さすがに抜き身のままだと不審がられるだろうし。

 なるべく刀身が見えなくなるように抱きしめて、取りあえず町の外へ向かうことにする。

 あの森なら、きっと手頃な材料があるだろうし。


 一仕事してくれた大剣を撫でていると、ふと、腐食の精霊さんに会う約束を思い出す。

 …事態が収拾したら会いに行く、って言ったっけ。


「そうだそうだ。それに、この子も紹介しないと! ううん、緊張してきた!」


 ちょっと歩いて、僕がいた場所を振り返る…兵舎、だっけ? なんか見覚えがあると思った。

 兵舎、ね……これ以上フリギアと一緒にいたら色々マズイよなあ。


「色々助けてくれたのは分かる、けど」


 一緒にいるとロクでもないことが起きると、僕の勘が警鐘を鳴らしているのだ。

 こういう勘だけは、良く当たるから、信じて損はない。


「よし決めた!」

 

 今後はフリギアたちを見たら逃げておこう! そうしよう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ