序章(仮)
人物描写等、説明不足な部分が目立つとは思いますが、よろしくお願いします。
「やあ兄ちゃん。一人でこんな薄暗い森ン中歩いてたら、危険だぜぇ?」
「そうそう、俺たちみたいな善良な賊に、狙われちゃうからな!」
目の前の五人の男がそういってお互い顔を見合わせて、下品な笑い声を上げてくれた。
全員が全員、ただの村人風の服を着ているけど、顔に傷があったり、剥き出しの腕に刺青が入っていたり、ちょっと普通じゃない雰囲気。
そこで始めて、世間に疎すぎる自分でもかなりマズイ状況だな、と分かったわけで。
「し、失礼しましたっ!」
慌てて逃げようと振り返れば、そこにも三人の男が。驚いて足を止める僕を指差して爆笑していた。ヒドイ。
「兄ちゃん、どこに逃げようってんだ?」
「田舎者すぎるぜ?」
ど、どうしよう……前にも、後ろにも山賊っぽい人がいるじゃん!
とは言うものの、彼らにとっても僕にとっても残念なことが一つ。
僕、ほとんど金品を持ってないんですけど。
許してくれないんだろうなあ、と諦めつつもお伺いしてみる。顔が恐怖で引きつりつつ、前方を塞ぐ男たちへ頑張って笑顔を浮かべてみせる。
「あの、ちょっと……ヨロシイデスカ?」
「おうおう、どうしたよ?」
「じ、実は僕ですね、その、アインスの町でお財布スッカラカンになってしまいまして」
「はぁっ?」
「ああん?」
「ほ、ホントですよっ? ほらっ!」
目つきが凶悪になっていく山賊さんたちに向けて、ぽいっと皮製のお財布を放り投げる。
それをキャッチした髭面の男。数回お財布振って顔が引きつりました。
「おいやべえ、マジで空だぞ!」
叫ぶ男へ、周囲が変わるがわる財布をもち、中身を見て顔を引きつらせる。
一人なんて、神様怨んじゃってるし……なんか、悪いことしたっぽい…?
「うわぁ、大はずれ! マジか!」
「おい兄ちゃん、隠してんじゃねえよな!」
「い、いえいえ! ほ、ほらっ!」
慌ててジャンプしてさらに身の潔白を示させていただく。もちろん、何の音もしませんよ?
「………はぁ」
あわせて八人の男が、見事に揃ってため息をつく。
一人が大げさに肩を落として、首を振る。
「仕方ねえ。兄ちゃん、悪いが死んでくれ」
「ちょっ? み、見逃してくれないんですかっ?」
「身代金を出せねえってんだ、仕方ねえだろう?」
「ま、その腰に下げたナイフなら、はした金にゃなるだろうさ」
「あーあ、マジでついてねえな」
口々に勝手なことを言いながら、各々獲物を取り出す。取り囲まれてる僕は、顔を前と後ろに往復させることしかできません。
それを見て、山賊の一人が鼻で笑う。そして、腰の短剣を指差す。
「兄ちゃん、そのナイフは飾りかよ!」
「え、ええ! 飾りです!」
「はあっ?」
「切れ味なんて、ありませんから!」
まさか本当に飾りだといわれるとは思わなかったんだろう、驚きで呆れ返る男たちへ、僕は言うしかない。
同じく自分であつらえた鞘を手で押さえ、強張った笑顔を向ける。
「ぼ、僕が初めて作った短剣ですから、価値もないと……思います、よ?」
「……ここまで大外れは久しぶりだな、オイ」
「なんかここまで来ると、殺したら不幸が移りそうですぜ」
「ま、仕方ねえや。証人になられたら困る。大人しく死んでくれ」
「ひぃぃっ? やっぱりいいぃぃっ?」
山賊のクセにいい感じのチームワークで円陣を組んで、僕の退路を立つ。振り上げられた幾つもの凶器を見て、終わったなあ、と顔をそむける。
「じゃあなっ……っ?」
「ぐっ?」
「どうしたっ? おいっ、コイツ、まさか囮かっ?」
「チッ! 応戦しろ!」
「こいつら、強いっ?」
「くそったれ!」
な、何が起きたのさ? もしかして、誰かが助けに来てくれた? まさか。
恐る恐る、閉じていた目を開けて見ると、足元に二人の山賊だったモノが倒れていた。
「えっ? わっ、ととと!」
状況を把握しきる前に、腕を誰かに引かれる。バランスを崩す僕に構わず、腕を取った誰かは森の奥へ、山賊たちがいない方向へ引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと、な、なんですかっ?」
「中々面白いものを見せてもらった。しばらくここで待っていろ」
「へっ?」
声の主は素早く身を翻し、山賊たちの下へ戻る。典型的な商人の服装をした、青髪の男、ということしか分からない。だけど、その腕に下げた剣は遠目でも年期が入った物だ。
それに、あの口調や 眼光の鋭さはどう考えても商人ではない。まあ、偉そうで強そうな商人かもしれないけど。
遠目で見る限り、青髪の男性以外にも仲間がいたようで、二、三人で山賊を相手にしている。
よくもまあ狭い森の中で、武器を自由に振り回せるなあ、あ、あの人は魔法を使うんだ、強いなあ、と傍観、感心しきり。
人数は山賊の方が多い。が、個々人の能力とチームワークは僕を助けてくれた人たちの方が上。結果は数分で一人を残し、残りは全員地面へ倒れる。
他人事のように傍観してたけど、僕はいつまでここにいればいいんだろう? と思えば、無一文君と遠くから呼ばれる。
「無……確かに無一文だけどさ…」
名乗ってもいないから仕方ないのかもしれないけど、その呼び方は酷くない?
だけど、命の恩人様だ。反発するのも馬鹿みたいじゃないか。
ということで、素直に僕を呼んだ男性たちのところへ向かうことにする。
「助かりました……ありがとうございます」
よくよく見てみると、一人残された山賊以外、全員が死んでいる。これはまた見事にやってのけたものだ。
この状況を作り上げた、青髪の男性が軽く笑って手を振る。ただ、笑ってみせても、その目つきの鋭さや厳しい雰囲気は変わらないけど。
「礼には及ばん。我らもこいつらを追っていたものでな」
「フリギア」
さらに何かを続けようとした男性。けれど、それは小さな声に止められる。
腕の長さほどの杖を持った少女が、青髪の男性をいさめていた。人形かと思うほど、整った顔。だけど、人形と間違いそうになるほど、感情がない顔だ。
上下関係は分からないけど、フリギアと呼ばれた男は肩をすくめてみせる。
「今の言葉は忘れてくれ」
「はあ。なんのことでしょうか」
一介の無一文である僕は全力で忘れさせていただきます。覚えていても、ろくなことにならないだろうしね。
僕の反応を見て、小奇麗な格好をした少女は口を少し尖らせ、フリギアは肩を震わせる。
「ねね、彼らのアジトはこの付近にあるみたいだけどさ、行ってみる?」
声がした方を見れば、金髪でくせ毛の少年が残された男を引き立てていた。残された山賊はロープに拘束された身をよじるけど、ロープが解ける気配もなく、少年のほっそい腕も全然動かない。
山賊へ感情の見えない視線を向けた後、少女が僕を見てくる。ううっ、なんだか心臓に痛いんですけど。
「彼はどうするの?」
とっとと私から離れろ! とその目が語っている、ように見えるけど…
ですよね! 僕も早くお暇したいです!
「ぼ、僕は何も見てませんし、聞いてません! 助けていただいて」
「連れて行くぞ」
「はぁっ?」
「そう」
フリギアの言葉に、僕と少女の声が重なる。すぐさま隣から感情が見えない視線が突き刺さり、痛いです。
「武器もなく、お金もない。死ねばいいの」
「ひぃっ」
「すまんな。ミノアは人見知りが激しいのだ」
「そ、そうですか…あははは……」
すいません、そういうレベルじゃないと思います! と心の中で突っ込んでおく。
ミノアと呼ばれた少女の視線が怖い。何で死なないの? 見たいな視線が怖すぎます!
気にするな、とフリギアは手を振り、今度は金髪の少年へ問いかける。
「ドゥールはどうだ?」
「え? 面白いモノ見れたし、連れてってもいいんじゃない?」
ニシシ、と笑う少年。見れば、その両耳が尖っており、エルフだと分かる。
「死ねばいいのに」
「ねえフリギア、なんかさ、ミノア不機嫌だよ?」
「彼女にも色々あるのだろう」
そっか、とあっさり納得し、少年はほれほれ、と山賊を引っ張る。フリギアは僕の前まで来て、軽く肩を叩く。
「さて、無一文君。武器も持たない君が無事に次の町へたどり着けるか分からん。折角助けた君の死体を見たくないからな、少しの間、我らと行動を共にして欲しい」
「…それは大変有難いのですが、僕、尋常じゃないほど足手まといですよ? あ、それから、僕の名前はシアムです」
「シアム、か。よろしく頼む。足手まといでも、先ほどの絡まれ方は面白かった。期待してるぞ」
「はあ…」
そんなもの期待されても。第一、山賊に襲われた時、生きた心地がしなかったのに、それが面白いで済まされるって…
凹む自分の背中を、ドゥールが遠慮なく叩いてくる。
「あいつらにバレないように堪えるの、大変だったよ! シアムさ、超面白い!」
「ご、ごめん」
慌てて謝るけど、どうやら彼は楽しかったと伝えたかっただけらしい。
ドゥールは細腕で山賊を引っ張りつつ、フリギアの前に立つ。
「フリギア、出発していい?」
「ああ、案内させてくれ」
「ほらほら、いけいけ」
「く、くそっ! 誰が…っ!」
「ん? もうちょっと楽しいことして欲しいって? いやいや、好きだねえ!」
「こ、こちらでございますぅぅっ!」
一体彼は山賊に何をしたのさ?
小さな指で突かれた山賊は途端に肩を落とし、アジトへ案内すべく道を歩き始める。嬉々として続く少年。
「アジトで殺されればいいのに」
「………」
僕を見て物騒なことを呟くミノア。彼女にだけは異常なほど嫌われている。
何もしてないはずなのに……冷や汗をかく僕の背を押すのは、苦笑するフリギア。
「最後尾は俺が行こう。シアム、離れるなよ」
「は、はい…」
スイマセン、このめまぐるしく変わっていく状況に追いつけないんですけど……
更新ペースは中~遅になると思われます、ハイ。
ちなみに、検索で「絶賛」とやっても引っかかりませんので悪しからず。
絶「讃」ですので……ドウデモイイデスネ。
※あらすじはイメージであり、実際の内容と異なる場合がございます。