〜5章〜 情熱④
ー林下峠警察署ー
国分「なんだって?」
山下「いや、ですから外部から応援がくるそうですよ。」
国分「それは聞いた!けど、この村は外部の人間を嫌うからなぁ。それなのにどうしてそんなことに。」
山下「まぁ、それだけこの事件に必死なんでしょうね上も。地域住民の反対を押し切っての取り決めらしいですよ。」
国分「まぁ、仕方ないか。誰でもいい。この村で起こった怪奇を解けるならーーー」
誰でもーーー
この怪奇事件の名は舞台となったこの村の名をとって決められた
『無月村殺人事件』
人口数百人のとても規模の小さな村
そこでは、村による取り決めが全てを決める。そのためか、外部の人間を嫌うような雰囲気が老若男女問わず根付いている。
しかし、それは村の中の老獪達が公に外部の人間は敵だと謳ったプロパガンダにより操作されている時代遅れの村だ。
無月村に起こった怪奇事件を調査するべく送り込まれた人間
その人達を送る車内には中学生が乗っていた。一般的な中学生なら、ゲームの話やテレビの話で盛り上がるだろうがこの車内は違った
霧が濃い囃子のなかを進む車の中の三人
雄大「なんか嫌な感じだね。」
朝比奈「そうね、無月村に近づくほど霧もでてるし。ある種のクローズド・サークルになるかもね。」
霧島「フンッ、嫌な事を言うな」
中学生三人を乗せた車内には中学生らしくない会話が聞こえる
この三人は中学生ながらそれぞれの故郷県内での力を持った優秀な人材だ
警察にもそれなりに信頼を得た中学生
田辺雄大
中学一年生 男
後の世において、パンドラを倒す警察全ての切り札となる男
この時点では、まだ全国的な有名人ではないものの、地元の警察に知らない人はいないぐらいの推理能力を持っている
中学生時点、解決事件件数=57
朝比奈零下
中学一年生 女
黒髪のツインテールが特徴で、アイドルが着るような派手なものを私服として着ている
地元では有名な中学生で、推理能力を買われてこの村に送られた。
中学生時点、解決事件件数=38
霧島聖
中学一年生 男
ふてぶてしく、そして気だるい雰囲気を持つ少年。常に半目で何を考えてるか分からず、嫌味を言うこともある。しかし、推理能力を解いた事件件数で言うならこの子が一番の実力者である。
中学生時点、解決事件件数=109
個性豊かな面々が集まった。この三人は皆顔見知りであるが、仲はあまり良くはない。悪くもないが良くもない。そんな関係。
朝比奈「さて、事件のおさらいをしておこうかしら。」
雄大「そうだね!」
朝比奈「まず、第一の事件から。被害者は、斉木良太。その村の高校生ね。死体はでてないけど、木のてっぺんの枝で死んでたらしいわ。これは母親の証言。」
雄大「証言ってだけじゃ、まだ斉木良太が生きてる可能性だってあるわけだよね。その母親が嘘をついてるかもしれないし。」
朝比奈「そうね、その考えが正しいと思う。」
二人が納得して話を続けようとした
霧島「待てよ、この話明らかにおかしいだろ。」
朝比奈「おかしな所は今雄大が言ってくれたじゃない。」
雄大「他になにかあるのかい?」
霧島「テメェら二人揃って馬鹿面しやがって。こんなのド素人でもわかる話だ。」
朝比奈はムッとして聞き返した
朝比奈「教えてくれる?」
霧島「気のてっぺんの枝。・・・、この母親枝って言ったんだぞ?」
雄大「・・・あ。」
霧島「木のてっぺんに人を吊るせるほどの枝はねぇ。」
朝比奈「・・・、確かに。」
「けど、なかにはあるかもしれませんよ?」
車を運転していた刑事が言った
その刑事を横目で睨みながら霧島は言った
霧島「・・・、木っていうのは上に行くほど枝分かれして、枝が細くなる。どれだけ大木だろうとてっぺんの枝みたいな細い場所に人間を吊るすなんて不可能なんだよ。自重で簡単に折れる。」
「あ、そっか。でも、枝の根元にかかってたんじゃないですか?ほら木の枝の根元なら人が吊るせるでしょ?」
霧島「あのなぁ、枝元でもほぼ不可能だ。てっぺんならなおさらな。しかも、枝元なら葉で覆い隠されて視認するのはまず困難だ。その時、時刻は深夜。ただでさえありえんのに、あんたの言った事を事実とするなら余計に無理だ。」
目上の人間にも敬語を使わない霧島
霧島「それ以前に、その証言を鵜呑みにしたとしてそんなとこへどうやって人間を吊るすんだ?。この話は全てが子供の言い訳にすぎない。」
体裁が悪そうに刑事は苦笑いしていた
それを見ながら霧島は溜息を漏らした
朝比奈「つまり、この証言は完璧な・・・」
雄大「ダウトって事になるね。」
霧島「つーか、分かるだろ。暗闇の中人を見つけるなんて不可能だ。」
そうだ、この村の事を聞いた時からおかしなことだらけだ。
雄大「それと、次は・・・」
朝比奈「あぁうん。えっとね、次の被害者は仙道解。あ、行方不明者についてはまた後でね。」
朝比奈が話を続けようとした時に窓を見て刑事が言った
刑事「ほら、見てごらん。そろそろその問題の村に一番近い街だよ。」
雄大「無月村ってこの街を通らないといけないんですか?」
刑事「そうなんだ、まぁ行こうと思えば行けるんだろうけど、とても人が通れるようなところなんてこの街を抜ける以外にないんじゃないかな。」
雄大「へぇー、」
朝比奈「この街の事教えてもらっていいですか?」
刑事「もちろん!この街の名はーーー」
そう言った瞬間全員が衝撃を覚えた
ギャィィィィーーーー
車が急ブレーキをかけたのだ
霧島「ぉい、ふざけんなよ。なんなんだ。」
朝比奈「いったぁ、なにかあったの?」
雄大「ゲホッ、ん?」
刑事「・・・なんだ・・・あれ。」
刑事の方を全員が向くと刑事は青ざめた表情で前を見ていた
いや、正確には斜め上前だが・・・
それぞれがそれを見た
霧島「・・・嘘だろ!?」
朝比奈「・・・なによこれ。」
雄大「・・・この村に入るなってか。」
それを見た時さっきの少女の言葉を思いだした
この街へ行く道に立っていた少女
物凄く恐い顔で訴えてきたのを覚えてる
その手には彼岸花を持ってーーーーー言った
『赤きリンゴが宙を舞い、訪問者に災いをもたらすであろう。なにも解いてはならない、なにも知ってはならない、なにも喋ってはならない。このコトノハが貴方を守る最後の綱なのだから。どうか、お願いーーー。』
結局、俺達はその少女の話を聞いたが依頼を断るわけにもいかないのでここへ来た
霧島「・・・さっきの赤きリンゴって」
雄大「この事だろうね。」
車が走っていたのは霧が多い林道
その木と木が道を挟んで離れていたが一本のロープで結ばれていた
そのロープには実がなっていた
とてもとても赤い赤い果実が
雄大「・・・人の生首。」
この事件は開けてはならない禁忌の箱だと後に気づく。その禁忌を破りし物達には必ず裁きが下される。
その街の隅で一人の女が呟いた
魔古「開けてしまったわね、二度と閉じないパンドラの箱を。」