ショート:あなたはとても大切な人
僕はとても厭な人間だ。
嫉妬をしたり、人を信じなかったり、計算高かったりして。
それなのに、彼女は僕のことが好きだという。
僕にはそれが理解できない。
「えっどうして君の事が好きなんだって? そんなこと言われてもなぁ」
彼女は、桜色に染まった頬を指で掻きながら、そう答えた。
「好きなになる理由なんてあるのかな。なにか覚えていないけれど、好きになる理由は後付とかいうじゃない。あの人の顔がいいとか、優しいとかね。そうじゃなくて全ては一目惚れだって」
彼女は旨のポケットから煙草を取り出した。
口にくわえて火をつける。
「それって、本当なのかなとわたしは思う。でも答えなんて出ないじゃない。だから、わたしは考えないようにしているんだ。わたしは君を愛している、とてもね。それだけで十分じゃない」
キャー恥ずかしいと言って顔を両手で隠す。
でも、指の隙間から大きな瞳が眼鏡越しで僕を見つめていた。
「でも、僕は自分のことがそんなに好きじゃない」
「んー、好きって一方的なものでしょ。だから、わたしが好きなものは君が好きだとは限らない。『どうして、この人は好きなんだろう』って思ってもしょうがないでしょ。好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。OK? でも、考えることが意味がないといっても、考えてしまう。でも、答えはないよ。そんなの勝手に納得をしてよ。それよりも重要なことが一つ」
「重要なこと?」
「君はわたしのことが好きなのかな」
勿論と言おうと口を開いた時、彼女は吸いかけの煙草を口に入れた。
間接キスだよ、と笑いながら。
メンソールと彼女の味がする煙草を銜えたまま、僕は空を見上げた。
嫉妬したり、人を信じなかったり、計算深いけれども、僕を好いていてくれる人がいる。
そんな厭な僕にも好きになるところがいる。
だったら、僕はそれほど厭な人間じゃないのかもしれない。
あなたが好きな僕を、僕自身が好きになるのは簡単なことなのかも知れない。
最低な僕だけど、僕は君を愛している。
「なぁ、本当に何で僕のことが好きなん?」
「強いて言うなら――やっぱり秘密」
あなたはとても不思議な人。
とても大切な人。