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第10話 お粗末な奴ら

「ここが新ダンジョン……『水晶窟』か」


 カスパーが呟く中、俺はダンジョンを見つめる。

 入口は美しい水晶で満たされている。

 奥も青い水晶が壁や天井に埋まっているのがわかった。

 ダンジョンの形式や構造によって魔物の種類を推測できる。

 水晶が多いダンジョンなら、水晶系の魔物が出ることは間違いない。

 水晶生物と魔術師系かな。

 前者だとちょっと困るな……俺の戦闘スタイルと相性が悪い。

 ちなみに俺が今つけているスキルはこれだ。


 スキルポイント: 0(10)

 スキル :パリィ、インベントリ・小

 魔術  :なし

 聖術  :なし

 カンスト限定スキル:経験値効率アップ・小、移動速度アップ・小


 うん、スキルポイントがなさ過ぎてこの二つしか付けられなかったんだ。

 パリィは俺の命綱だし、インベントリがないと現在持っている所持品の扱いに困るからな。

 経験値効率アップと移動速度アップはスキルポイントを使用しないから常時つけている。

 ちなみに、俺は背中に無駄に大きい鞄を背負わされているが移動速度は少し早い。

 重みを無視して自動的に移動してくれるから、小さな歩幅で進んでくれるのだ。

 これはかなり有用なスキルだな。

 まあ、本来はインベントリがあるから不要な技術ではある。


「さっさと行くぞ。

 低レベル組は遅れるなよ!」

「私たちのぉ、邪魔だけはしないでねぇ。

 役立たずなんだからさ」

「雑魚どもは後ろに下がっておれ!

 俺たちの邪魔したらぶっ殺してやるからな!」


 ロイドと女魔術師と大柄の重戦士の順に口を開いた。

 全員口が悪いな。

 低レベル組は俺を含めて十人くらい。

 全員、初心者って感じの装備と見た目をしている。

 大抵の連中は緊張しているようだ。

 カスパー含む戦闘組兼先導組は十人くらい。

 結構、いるんだな。

 攻略組に参加すれば経験値が貰えるから、それ目的だろう。

 パーティを組めない連中は大人数のクエストに参加する方がいい。

 これはゲームにはなかった仕様だ。

 俺はアライアンス(大人数)どころかパーティさえ組んだことがない。

 ソロの方が経験値効率もいいし、邪魔がいないからな。


「大丈夫。何かあっても僕たちが守るからね」


 爽やか青年カスパーが俺たち低レベル組に笑顔を振りまく。

 なんかいい奴すぎて、逆に怪しくなってきた。

 こいつ途中で裏切ったり、土壇場で真っ先に逃げたりしないだろうな?

 一応、狩りやレベル上げに関係あるかもしれないので、ゲームの登場人物や世界観、おおまかなストーリーやクエスト内容はある程度知っている。

 その中にカスパーやロイドってキャラはいなかったはずだ。

 以前会ったアイリって奴も知らない。

 つまり彼らはNPCではないということだ。

 ま、別に気にすることでもないか。


(それよりも狩場だ!

 さてどんな魔物が出るかな)


 俺はわくわくしながらダンジョンへと足を踏み入れた。


   ●◇●◇●◇


 水晶に塗れた洞窟を進む。

 カスパー含む戦闘組は前列、俺たち低レベル組は後列に位置している。

 水晶のおかげか内部はかなり明るく、松明もいらない。

 しばらく進む。

 と。


「魔物がお出ましだぜ」


 大柄の重戦士が嬉しそうに叫んだ。

 水晶に侵された人型の何者か。

 水晶生物の人型、水晶人か。

 異常に頑強で、通常攻撃が通りにくい相手だ。

 剣を主に使う俺とはやや相性が悪いタイプだな。

 ふむ、新ダンジョンではあるが、新しい魔物ではないらしい。

 戦闘組が全員武器を手にする。


「行くぞ!

 俺に続け!」


 ロイドが長剣片手に突っ込む。

 不用意だ。

 相手の出方を見ず真っ先に攻撃するのは愚策と言っていい。

 よほどの実力がなければやるべきではない。

 ロイドはやや拙い、しかし慣れた動きで攻撃に転ずる。

 ガン。


「ぐっ! 固いぞこいつ!」


 見ればわかることを、攻撃した後に叫ぶロイド。

 どうやら水晶系の魔物のことを知らないらしい。


「俺に任せろ!」


 大柄の重戦士が大剣を振るう。

 ぶぉん。

 水晶人の腹部に直撃。

 水晶生物は衝撃に弱い。

 特大武器の攻撃の効果が絶大なはずだ。

 だが大柄の重戦士は見た目の割に膂力が足りないらしく、水晶人を砕くほどの攻撃力はないようだ。

 水晶人の腹部に小さなヒビが入るにとどまった。


「よし! 俺の攻撃が効いているぞ!

 続け!」


 歓喜の声を上げる大柄の重戦士。

 それに呼応するように魔術師の女が杖をかざす。


「行くわよ!

 火球!」


 バスケットボールくらいの火の弾が水晶人へと向かう。

 ボン。

 着弾。

 威力は……低い。


「ギギギギギ」


 水晶人が壊れた人形のように不気味に暴れ回す。

 ごが。

 敵の攻撃がロイドに直撃。

 素手での攻撃だが、相手は水晶の身体。

 ロイドは後ろに吹き飛んだ。


「ぐっ! こ、こいつ! まだ生きているのか!」


 ロイドは立ち上がりつつ、顔をしかめる。

 多少ダメージは受けたが、まだ動けるようだ。

 魔物一体相手にかなり手間取っている様子だった。

 そんな中、一つの影が飛び出る。

 カスパーだ。


「ふっ!」


 左手に小盾、右手に長剣を持つオーソドックスな戦闘スタイル。

 だが他の三人に比べ、身のこなしは洗練されている。

 カスパーは水晶人の腹部に向けて剣を突き刺す。

 同時に剣を手放すとそのまま横に回転し、盾で剣の柄を殴った。


「ギギギ」


 突き刺さった剣が衝撃で水晶人の腹部を破壊。

 真っ二つになると、動かなくなった。

 経験値がその場にいた連中全員に入る。

 俺にもほんのわずかに経験値が入った。

 パーティやアライアンスでは魔物の経験値の一部は全員に入るシステムだ。

 つまりよほどの強敵を倒さない限り、レベル上げには向いていないということ。

 まあ、水晶生物ってレベル20くらいだからな。

 カスパーたちにとっては適性レベルの魔物だし。

 経験値はこんなもんだろ。

 妙に苦戦してたけどな。


(パーティを組むのは初めてだからわからないが、こんなものなのか?

 それともこいつら、連携がうまくないだけなのか?)


 見た感じ、かなり拙い戦闘だった。

 パーティ戦というのはこういうものなのだろうか。

 カスパー以外の動きは悪かったように見えたが。


(いや、もしかして俺もああいう感じの動きをしてるんじゃ?

 こっちの世界に来てからまともに他人の戦闘を見たことがないからな……。

 人がいたらすぐに離れるか、助けるかのどちらかだったし)


 待てよ。

 そういえば、反応からして水晶人のことを知らない感じだったな。

 なるほど、そういうことか。

 事前情報がない上に、俺たち低レベル組までいるからな。

 プレッシャーがあったんだろう。

 その証拠にカスパーの動きは悪くなかった。

 魔物の弱点や特性を理解した攻撃をしていたしな。

 そうか、そういうことか。


「ちぃ! なんだよこの魔物……無駄に硬いくせに経験値はすくねぇな。

 ってか、他の連中も手伝えよ! 役に立たねぇな」

「私たちが倒さなきゃどうなってたのかしらぁ。

 あの人たち大丈夫ぅ?」

「まったくだ。

 どうやら低レベルの雑務組と同じように戦闘組も使えないらしいな。」


 ロイドたちが他の戦闘組に嫌味を漏らし、さっさと先へと進み始める。

 残された戦闘組の間には重い空気が漂っていた。


「けっ……てめぇが勝手に突っ込んだんだろうが」

「やっぱりやめといた方がよかったんだ。

 ロイドたちに絡んでもろくなことになりゃしねぇよ」

「仕方ねぇだろ。新ダンジョンの攻略担当に真っ先になりやがったんだからよ。

 あいつ、戦闘のセンスゼロなのに、ギルドに取り入るのだきゃ上手ぇ」


 何やらぐちぐち言っている残された戦闘組連中。

 色々ありそうだな。

 まあ、俺には関係ないが。


「み、みんなごめんね。

 ちょっと攻略で緊張しているんだと思う。

 みんなの力が必要なんだ。手伝ってほしい」

「……カスパーがそう言うんなら、まあ」


 頭を下げるカスパーに戦闘組は仕方ないとばかりに嘆息した。

 全員がゆっくりと移動を始める。

 内輪もめするくらいなら、もっと狩りに集中しろよ。

 もったいない。


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