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現代から逃げた先に

昔とある曲を聴いて思いついたSFを書いていきます

僕がタイムマシンに乗ったのは、ある種の逃避だった。


十八歳になり、大学に進学し、一人暮らしを始めても、親との距離は変わらなかった。


電話口で母はいつも同じことを聞く。


「最近、どう?」


僕は「まあまあ」と答える。

それ以上でも、それ以下でもない言葉。


帰省すれば、食卓は静かだ。

父はニュースを見て、母は必要以上に料理を並べる。

会話はある。だが、本音はない。


嫌いなわけじゃない。

ただ、どう近づけばいいのか分からない。


そんなある日、大学構内の人気のない掲示板で、それを見つけた。


《国家主導 時間遷移研究 被験者募集》


一瞬、目を疑った。


——国家主導の研究が、どうしてこんな大学に?


名の通った理工系でもない。研究設備が充実しているわけでもない。

しかも掲示板は、学生があまり通らない場所にある。


紙は新しかった。

まるで今貼られたばかりのように。


詳細は最低限だった。守秘義務、健康条件、簡単な適性検査。

危険性は「理論上、極めて低い」とある。


理論上。


その言葉に、わずかな違和感を覚えながらも、僕は応募フォームを開いていた。


逃げたかったのだと思う。


家族からも、そんな後ろ向きな自分からも。


研究施設での説明は簡潔だった。


「過去への干渉は禁止です。観測のみにしてください。」


無機質な警告。


操作席に座ったとき、僕の前に表示された画面には、いくつかの年代が並んでいた。


移動先は自分で指定できるらしい。


指先が、少しだけ震えた。


過去。

それも、できるだけ遠くない過去。


僕は、なんとなく数字を選んだ。


自分が生まれて、間もない頃。


——会えるかもしれない。


若い父と母に。


「もう一度言っておきますが、絶対に干渉しないでくださいね」


研究員の声が背後から聞こえる。


僕は操作パネルに触れた。


起動。


光が歪み、時間が軋む。


このとき、僕はまだ知らなかった。


家出くらいのつもりで押したそのボタンが、

帰るはずだった未来を一つ失わせることになるなんて。

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