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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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幕間~フェルディナントのとある1日。

フェル視点のお話しです。

小話で、本編には関係ないお話しになっております。




 初めての異世界の料理。それはハンバーグというものだった。

 この世界の料理はシンプルで、リーンが作ったように手をかけて料理をする人間は見た事がない。

 何処かの国では少しずつ料理の幅を広げてはいるらしいが、この国ではまだそこまで手をつけられてはいないのだ。

 この国の風習、というものが、関係しているのだけれど。


 そんな中、手の込んだ料理は美味しいというのを、初めて知った。


 焼いて塩胡椒で食べるのも勿論好きだが、リーンの料理に慣れると辛いかもしれない、なんて事も考えたりする。

 ハンバーグを作った後も、異世界の料理を振舞ってくれた。レシピという料理本も作成して、誰でも作れるようにしてくれているらしい。が、やっぱりリーンの作った料理の印象が強すぎて、他の誰かが作ったものは劣る気がするのだ。

 だからリーンの料理に慣れると、美味いけど、辛い。


 既にガッチリと俺の胃袋を掴んで離さないリーンの料理だったが、その中でも更に俺の心を捉えて離さないもの――マヨネーズ。


 これも作り方は至ってシンプル。

 でも、初めての味。

 これは陛下に報告するべきか・・・?

 いや、リーン関係の報告書は、ヒースが作ってるから俺は別に・・・作成する必要はないのだ。

 だけど、態々ヒースがそんな事を自ら買って出るのは珍しい。

 やれば出来るのだが、基本、ヒースは細々としたものが好きじゃない。

 あんな細かい魔方陣を平気で作成する人間が、書類の細かいのは好きじゃない、なんていうのだから意味がわからないが。

 そんなヒースが、態々書類作成を自分の意思で行っているのだ。

 気に入ったんだろうなぁ。リーンの事を。

 年上だけど、俺も弟が出来たみたいで嬉しいんだけどな。


 お互い嘘はつくし。

 隠し事はするし。


 本音は中々言わないし。

 今は腹の探りあい状態なので、ほぼ、言わないが。



 それでも、話してて、面白い。


 そういうタイプは、ヒースで慣れてるから気にならないし。




 そういや、ヒースはあれを、なんて報告したんだろうな。



 市でリーンを一人にし、姿を消した件。


 リーンは言わなかったが、アレは、連れ去られた。

 それぐらいは言われなくてもわかる。


 あの時、リーンがいなくなったっていうのは、さほど問題じゃない。

 ヒースのマントを身につけていたし、それだけで身の安全は保障されたはずだった。のに、それを打ち破る濃い闇の気配。

 リーンを包み込むように、その存在を主張していた。

 けれど、それにリーンは気付かなかった。

 本当は気付けるはずなのに、自分に害がないから気付かないのかどうなのか。

 寧ろリーンは魔法の勉強をした方がいいんだろうな。本当に。

 そうすれば、今の状態を自分で制御出来るはず、なんだけど、本人が気にしていないものをどうやって制御するのかどうか。

 魔法に疎い俺にはわからん。

 多分ヒースがなんとかするだろ。



 トントン。


 と、思考を中断するノックの音。

 リーンの気配に、珍しいなと思う。


 大体、俺が書斎に篭ってる時は仕事だ。書類整理なんかをやったりしてる。

 それを知ってるからリーンはお茶以外では近づかないけれど・・・お茶の時間にはまだ早いな。


「フェル・・・今いい?」


 控えめな声色。


「どうぞ」


 どうしたんだろうと思いながら扉に向かって言うと、控えめに扉が開かれ、その隙間からリーンが顔を出す。


「どうした?」


 声に出して聞いてみる。



「マヨネーズを配ろうかと思うんだけど、材料を使ってもいい?」


 配るのか。

 まぁ、好評だったし。

 家族に食べさせたい、なんていう事を言ってから、それでだろうとは思うけど、態々確認なんかしなくてもいいのにな。


 面倒くさがりやなのに、律儀に確認しにきたリーンに俺は笑みを返した。


「アレは美味かったしな。配りたいって頼まれたんだろ?

 材料は気にせず使って配って、そのついでに俺にもサラダを作ってくれたら嬉しいな」


 本当に美味かったから、身内に配りたいっていう気持ちは分かる。

 今この屋敷にはいないが、俺も世話になった人たちだし、それに惜しむつもりもない。

 どんどん配っていーぞ。と、笑って話した。


「ありがとう。サラダは今夜ね。

 後、お礼ってわけじゃないけど、おやつを作ったから・・・一段落ついたら食べてみる?」

「今食べる」

 即答した。

 丁度区切りもついたし、書類作成所か別の事を色々考えていたし、ここで糖分を取るのは大歓迎だ。

「仕事は大丈夫?」

 心配そうな眼差し。

「あぁ。殆ど終わってるよ。これからまとめだから、今の内に糖分補給って事で」


 その方が効率もあがるだろうし。




 音もなく俺の隣を歩くリーンと話しながら、その細い肩をじぃっと見ていた。

 随分小さくて細い。

 もう少し筋肉つけないとな。これじゃあ好きな女が出来た時困るだろ。



 この時の俺は、リーンの真実には気付かず、本気でこんな事を考えていた。


 本当に、弟が出来たみたいで嬉しかったのだ。






 ちなみに、今日のおやつはホットケーキというやつらしい。

 上にのっかったバターとメープルシロップという魅惑の甘味一式を口にしながら、俺は感動に打ち震えていた。

 やっぱり全てが初めての味。


「俺・・リーンに餌付けされてるよなぁ」


 なんて笑ったら、リーンも笑った。



 リーンが女の子だったら、絶対嫁にしたいよなぁ、なんて冗談交じりに言葉を紡いだら、やっぱりリーンは笑ってた。


「フェルは胃袋に弱いんだね」


 って言われたけど、否定は出来ないから黙っておく。



 ホント美味いんだよ。

 慣れちゃまずいけど、美味くてどうしようもないしなぁ・・・

 




 と、ホットケーキを食べなかったヒースに愚痴ってたら杖が飛んできた。

 相変わらず手の早いヤツだ。


 あぁ。そういやヒースも弟みたいだよな。

 リーンとヒースってタイプが似てるし。 



 そんな事を考えていたら、今度は樽が飛んできた。


 ・・・・・・そろそろ仕事に戻るか。


 次は何が飛んでくるかわからないし。


 遠くで蠢く巨大な何かを視界の隅におさめながら、俺は慣れた動作であっさりと戦線離脱を果たした。



 まったく、手のかかる弟が多いよなぁ・・・。

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