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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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はじめまして異世界・3

短めです。

 情報交換もどきと食材調達の為に街へと出た。

 ゲームの街並みを想像していたのだが、どちらかというと日本の朝市といった感じだろうか。道の両脇にこれでもか、という程並んでいる。

 凛が想像した通りの建物もあるが、それは武器や魔道具や衣服といった店になっているらしい。買い手を限定するものは建物。買い手を限定しないもの。つまりはお手軽な値段のモノは市になるらしい。

 この世界の単価は、銅貨がカーカ。銀貨がシーマ。金貨がイーマという単位になっている。金額としては1カーカは100円。1シーマ1000円。1イーマ10000円と言った所だろうか。

 売られている野菜を見ながら、日本に置き換えて考えてみるが、一文無し状態の凛には今の所関係はなかったりもするのだ。

 むなしい事実だが。


 夕飯の為の材料費にフェルディナントから小袋に入った10イーマを渡されたが、迷わず金貨一枚だけを手に取り、残りを返した。

 流石に一食分に10万程のお金は使いたくない。


「つかっちゃっていいのになぁ」

 凛の態度が控えめにうつったのだろう。しみじみと呟くフェルディナントの言葉をさらっと流す。

「自分で稼いでないのに贅沢なんかしたくないよ」

 節約生活が基本になる異世界で、今から贅沢を身に着けてどうしろというのか。

「それよりも、どういう料理が好きなの?」

 凛は料理の味付けにはうるさいが、好き嫌いはない。味付けに煩いといっても食べれないわけじゃない。どちらかというと出汁がきいた味の方が好みだが、そうじゃなくても食べれてしまう。

「俺もヒースも嫌いなモノはナイ・・・な」

「そうだね。ゲテモノ料理以外は食べれるね」

 まったくもって参考にならない好み。

 しかもゲテモノ?と凛の瞳に戸惑いの色が浮かぶと、ヒースは辺りを見回し、とある店を指差した。

「あれ」

「あれ?」

 ヒースの言った場所へと視線を向ければ、吊り下げられる蚕のような物体。

 しかもサイズは規格外の2リットルのボトルサイズ×2個。

「後、あーいう感じ?」

 そこにフェルディナントも付け足す。

「・・・・・・・」

 蚕もどきから視線を移し、凛は静かに首を横へと振る。

 スライムみたいな物体が縄でぐるぐる巻きにされて吊り下げられている。色は蛍光ピンク。

「珍味らしいよ」

 フェルディナントの何が言いたいかわからない言葉をうけるが、凛は何とも言いがたい表情を浮かべると、両手を交差させ、顔の前でバツ印を作った。

「あんなの、色からして受け付けないよ」

 食卓に並ぶ事も正直勘弁してほしい食材。

 凛としては、アレを食材と呼ぶのはかなり抵抗があるのだが、この世界では食材扱いだから仕方ない。きっと、ナマコのようなものなのだろう。

 無理やり納得させると、試食をさせてもらいながら市場をまわる。

 食材の味と、調味料の確認。売られている料理。

 その場で調理している場合は足を止め、その光景をしっかりと記憶した。

 器具の使い方と調味料の使う順番を覚え、それを味見してイメージを固める。


「どんな料理を作るんだ?」

 凛の様子を見ていたフェルディナントが、幾分声を弾ませ凛に尋ねるが、

「美味しいかはわかりませんよ」

 しっかりと釘をさしておく。

 過度な期待は困るのだ。

 りんごの形をしたキャベツに、疑問を抱かずにはいられない。

「大丈夫大丈夫。じゃ、ドンドン買おっか・・・リーン?」

 てっきり食材を見ているのかと思ったら、凛の視線は少し離れた店へと注がれていた。

「興味がある?」

 いつの間に買ったのか、手に紙袋を持ったヒースが凛の背後に立つ。

 背後に立たれると落ち着かない気分にさせられるが、興味があるので凛は素直に頷いた。

「染め粉だよ」

「染め粉?」

「髪の色をね、変えたりするんだ」

「そうなんだ。確かに色々いますよね」

 原色系は黒と白を除いて全部あったような気がする。

「実際ある髪の色を元に染め粉を作ってあるんだけどね」

「・・・いるんですか」

 流石異世界。

 侮りがたし。


「染めたい?」

 フェルディナントの言葉に、凛はいいえ、と短く言葉を返した。



「(染め粉があるのか・・・うん。安心した)」


 そう思ったのは、やっぱり秘密。


 そして何かがあると感づいた二人だったが、それを問うような事はしなかった。


「・・・リーン。買うのはどんどん籠にいれてけよ。荷物持ちは任せとけ」

 沈黙を嫌ってか、フェルディナントは持っていた籠を上へと上げる。

 取りあえず料理を作ってもらってそれを食べる。

 今はそれでいいのだ。


 凛に金貨を渡した割りに、フェルディナントも目についた物をドンドンと買い込み、結局金貨はフェルディナントとヒースの懐から出ていく事になった。

 活躍の場を失って、凛のズボンのポケットにおさまっている小さな袋。

 使われる事のないままあふれそうな食材を押し込め、かなり重くなったはずの籠をフェルディナントは片手で軽く持ち上げると、

「リーン。俺はこれを置いてくるよ。ヒースは籠買ってきて」

 どうやらまだ買い物を続ける気らしいフェルディナントの言葉に、凛は待ったとばかりに歩き出すヒースのマントを掴んだ。

「まだ買うんですか??」

 籠は、スーパーのプラスチックの籠ぐらいの大きさはある。それがいっぱいなのだ。

「後は果実な。やっぱ食後の甘いものは別腹だろー」

 豪快に笑い、ここで待っててな、と凛の頭を撫でるフェルディナントと、何故かフェルディナントに倣うヒース。

 凛の頭を撫でると、迷子にならないように、と言葉を残して走っていく。

「頭は撫でなくていいのに」

 多分、弟が出来たような気分なのだろう。

 根本的から間違っている、なんて指摘はしないけど。

「まぁ、ここで待ってるか」

 壁際までいくと、そこで一息つきながら市で賑わっている人々の声を聞いていた。

 異世界といっても、市の賑やかさは変わらない。


「賑やかだなぁ」

 二人がいないと、途端に静かになる凛の世界。

 これに慣れると厄介だな、なんて自分に釘をさす事も忘れない。

「そういえば…籠は何処に置きにいったんだろう」

 呑気にそんな事を考えていたら、突然肩を掴まれたような衝撃が走る。

「!?」

 凛の背後は壁。

 誰かに掴まれるはずがないのだが、そのまま後ろへと引き摺りこまれるように身体が壁へとめり込んでいく。


 流石ファンタジー。


 身体全身を打つような衝撃が走っていたが、凛の脳裏に浮かんだ言葉はそれだった。

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