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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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別れの足音・1



 フェルディナントに頼まれていたアイテムを渡した後、凛は庭が見渡せるベンチへと腰を下ろし、綺麗な庭園を見ていた。ここから見る風景が好きで、1日1回は必ずといっていい程見ていた。

 心が和む場所。



「あれ……曇ってきたんだ」


 ほんの数分前まで晴れていたのに。


「変な天気」


 雨にぬれた後の庭を見るのも好きだが、雨雲を見てみるとかなり降りそうだ。濡れて帰れば、フェルディナントを筆頭に、屋敷の人全員が心配する。それを防ぐ為に凛は雨に濡れる前に部屋へと戻る。

 それから数分後、凛の思った通り大粒の雨が空から降りてくる。少し先も見えない程激しく降りだした雨。バケツをひっくり返したような雨っていうのはこういう事を言うんだろう。


「今日は温かいものがいいな。シチューでも作ろうか」


「そうですね。フェル様も寒いでしょうし」


 書類整理が済んだのか、朝から城に行っているフェルディナント。帰ってきて風呂に入って身体を温めて出てくるだろうが、それでもシチューは喜んでくれるだろう。


「サラダは温野菜。シチューとかぶるけど、マヨネーズで食べるから大丈夫かな」

 

 マヨネーズはフェルディナントが喜ぶ調味料だし。

 だから大丈夫と思って温野菜を作ってしまおう、そう決めて、手早く準備を済ませる。今日はシチューだが、余ったら明日はパイ包みにしようかなとメニューを考えながら、後を任せて部屋に戻る。

 その際、明日のパイ包みの事を話したから、ちょっと多めに作ってくれるだろう。





 ある程度、アイテムは作り終えた。

 数珠のように小さな玉でブレスレットを幾つも作ったり、買ったブレスレットに埋め込んだり、身に付けられるアイテムをこれでもかという程作った。

 魔力の結晶化は自分の魔力次第で幾らでも作れるので、そのおかげでアイテムの製作

にはあまり困らないで済んだ。

 これでもか、言わんばかりに玉を作っては様々な効果を付加し、次元のハザマへと入れておく。竜という自覚を持ってから、いっきに縛りが減った。

 ある程度、というよりやりつくした、と言い切れる。熱中するとどこまでもやり続けてしまうのは凛の癖でもあった。

 見えない場所だからこそ、やりつくす事が出来た。だが、これを表面に出すつもりは全くない。その辺りは姉の教育受けていれば自然と身につく事だった。

 真実を知れば、この時を見通して色々と教えてくれたのだろう。

 凛が苦労しないように、どこでも生きれるようにと。


 地球にいる兄と姉の事を考えると、ほんのりと胸が温かくなる。本当の兄妹ではないのだが、そんな事など関係ない程大切な人たち。



「オレのタイミングか」


 全ては凛次第。悩んでも答えが出てこない。相談する相手がいないという事もあるが、仮に出来る相手がいてもしなかっただろう。

 フェルディナントやヒースは、ネイリールに着いていくだろうと思っている。そう思うからこそ、一人で時間をかけて今まで悩んできた。

 まだ答えは出ない。時間がないわけではないが、幾ら悩んでも時間を費やしても、何もかわらない。

 それだけは確かな事だった。


「テノさんも着いてきてくれるんだろうなぁ」


 凛の傍から離れる気はないと言い切るテノ。

 そんなテノを置いていったら、クオロノエイまで自力で追いかけてきそうだ。


「あの子達は、この国で保護してくれてるから、このままの方が良いような気がする。」


 問題は他の国にある。凛では手の出しようのない他国の竜の関係者。

 元々この国以外は、魔法の力を手放してしまっている。そこに白竜とはいえ干渉は出来ない。国同士の話し合いが重要になる。

 恩恵持ちの使われ方を考えると、やはり使い捨ての暗殺者として育てられている可能性は高い。凛にとっては認めがたい事だが、事実でしかない。

 機嫌が決められてはいないからこそ、悩んでしまう。

 おそらく、何かのきっかけさえあれば、一気に事態は動くだろうが、今のままでは何も進まない。

 つい、頭を抱えてしまった。


 息が詰まりそうになる。

 気分転換をしようと部屋の外に出ると、扉にメモが挟まれていた。


「フェルから外食のお誘いだ……珍しい」


 お家でご飯が好きだと思っていたから、少し驚いてしまう。何か大切な話でもあるのだろうか。わからないが、とりあえず着替えを済ませ、厨房に顔をだす。

 事情を説明したら料理長が頷いてくれたけど、これは明日だけじゃ終わらないかな。

 パイ包みの分も作ってあるし。


「明日はヒースにも来てもらうよ。だから冷蔵庫に入れといて。無理して食べないようにね」


 冷たい玉をセットした異世界版冷蔵庫。それを作っておいて良かったなぁ、なんてしみじみと思いながら、待ち合わせの場所へと向かった。





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