動き出した運命・6
もう大丈夫。取り乱したりしない。
そう言い切ったアーフィイに、凛は本来の色を見せた。キラキラと輝く白色の髪。金色ので描かれたような瞳と睫毛。瞳の色は白金。
このまま消えてしまうんじゃないかと不安になる儚さ。思わず伸ばしかけた手を根性で背の後ろに隠し、アーフィイは凛を見つめた。
初めて出会った純血の竜。この世界ではなく、別の世界で生きてきた白竜。
「翼は広げられないのか?」
本来の色を見せてはいるが、翼の存在は一切感じない。
「うん。色は変わってるけど、人間だと思っていたからかな。翼っていうものがわからないんだ」
凛が本気で出そうと思えば出せるのだろうが、今の状況では出せる気がしない。
「そうか。竜化……も無理そうだな」
「うん。身体が全部変化っていうのは翼以上に無理だと思う。練習はしてみるけどね」
人間だと思い込んでいた事が大きいのかもしれない。
「色はさっきの茶色に戻すよ」
「もう変えるのか?」
凛の言葉に、アーフィイが声をあげた。いつまでも見ていたい白竜の色。竜還りでしかないアーフィイにとっては、焦がれすぎる存在でもあった。今までの言葉全てが吹き飛ぶぐらいには。
「そうだね。ちょっと落ち着かなくて。20年間茶色で通してきたからね」
「…そっか」
残念そうなアーフィイに少し胸が痛むが、凛は自分が落ち着く色へと変える。綺麗とは言われるが、凛にとってみたら、まだ完全に受け入れられない色でもあった。
自分はこの世界の人たちとは違うんじゃないかと考えさせられてきた色。地球に住んでいて、何に対しても興味を持てなかった自分への嫌悪が、そう思ってしまうのかもしれない。
「まぁ、お互い慣れていけばいいさ。
いつ行くか……だな。リーンが行けば、こっちの住人を招く事は出来る。
どうせアンタの事だから、全員連れて行きたいとか思ったんだろ」
「見てきたように言うね」
「……当たり前だろ。アンタが行く時に俺たちもクオロノエイに行く。俺たちならゲートを通らずに行けるからな」
「うん。わかった。行く時は呼ぶよ」
アーフィイはクロイツに任せているのか、口を開く事はせず、黙って話しを聞いていた。アーフィイにとってみたら、今日は何を言っていいのか。混乱しすぎて何を言えば良いのか分からなかった。
今まで憎んできた相手を憎まないでくれと伝えられ、それを持ってきた人間が実は純血の竜だった。
その事をクロイツは気付き、アーフィイは気付けなかった。あの2人への憎しみを忘れる事なんて今すぐ出来るはずがない。
凛を見てみれば、もう白竜にしか見えない。疲れきり、話を聞くだけで精一杯だったのかもしれない。
「ネイリールさんへの説明任せてもいい?」
「あぁ。アンタはゆっくりと休んでおきな。向こうに行けば、リーンはやる事が多いからな」
「わかった。それじゃーまたね」
クロイツとアーフィイに手を振り、凛はその場から姿を消した。
「今日は大人しかったな」
「情報量が多くて疲れただけだ」
「わかったわかった」
「だから」
「わかっているから、今日はもう休んでおけ。何か嫌な予感がする。しっかり休めとけ」
「…わかった」
クロイツの嫌な予感はよく当たる為、アーフィイは素直に頷き自室へと戻った。
自分の部屋へと戻り、閉じこもりの理由にしていた玉を作り出そうとするが、今まで緊張していたのか手の平に汗をかいていた。
軽く洗い、布で手を拭く。
「ふぅ」
漸く、一息つけた気がした。
手を止めたついでにお茶を用意し、お弁当を広げる。
色とりどりのお弁当。見るだけでも食欲が沸き起こるような気がした。
仲良くなれて嬉しいと、どうやって別れを切り出すかという悩みが複雑に絡み合う。クオロノエイに行った後も、いつでも引っ張れるとクロイツから聞き、少しは安心できたがそれでも不安が消えるわけではない。
ネイリールたちも少しずつ保護をしていくとは思うが、それには期待せず、クオロノエイで琥珀やクロイツたちと話し合った方がいいかもしれない。
ただ、時期については全くわからない。いつ行けば良いのか、それさえ迷う。
「不安が消える事はないんだな」
自覚したらそれはそれで別の不安が沸き起こる。けれど、凛はそれを抑え込み、深く息を吐き出した。
もう物事は進みだした。それを凛が止めるわけにはいかなかった。




