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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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動き出した運命・2



 夢の中で色々話をした。聞ける事は全て聞いたと思う。

 目覚めた時は少し疲れていたけど仕方ない。

 頬を2、3回程軽く叩いて眠気を取ろうとしていたら、扉を叩く音が聞こえた。


「リーン、起きたか?」


 フェルディナントの声。

 それに応えるように内側から扉を開け、フェルディナントを出迎える。


「起きてるよ。おはよう、フェル」


 笑みを浮かべ、フェルディナントへいつもの挨拶の言葉を口にした。この笑みは凛にとっての当たり前で、挨拶をしたら自然と浮かべてしまう。


「おはよう、リーン」


 まるで凛がいる事を確認しているかのように見えるが、フェルディナントからしてみれば、凛が再び自分の屋敷に帰ってきた事が嬉しくて、確認せずにはいられなかった。

 ネイリールとの話した内容を明かす事は出来ない。フェルディナントも、それを聞けるとは初めから思ってもいない。

 ただ、殺される可能性があった凛が殺されず、引き続きフェルディナントの屋敷で世話になる。その言葉だけで十分だった。

 ヒースもフェルディナントも、殺される可能性が捨てきれない事がずっと怖かったのだ。


「今から朝食を作るけど、間に合う?」


 時計を見れば、凛にしては珍しく寝坊をしてしまったが、フェルディナントが首を横へと振る。


「今朝は皆に任せた……というか、リーンから料理を教わって作りたくてウズウズしてるからな。そろそろ任せてもいいと思う」


「そっか。じゃあこれからは食べる専門に回っちゃっていいのかな」


 他にも思い出したものを教えたりする以外は。


「そうだな。リーンが作りたくなった時は好きに使えばいい。あいつらも色々な料理を作れて楽しいって言ってたしな」


「そっか。なんか嬉しいね。こんなに喜ばれるなんて思ってもみなかったから」


「リーンが来て、皆喜んでる。これからもよろしくな」


「うん」


 フェルディナントの言葉が嬉しかった。

 本当に家族の一員になれたみたいだった。


「(フェルの赤……色が濃くなってる)」


 加護持ちのフェルディナントとヒース。

 凛と共にいる事により、竜還りに近付いている。

 このままいけば、凛の影響で恩恵持ち。加護持ち。竜還りをする人間は増えていくだろう。


「(どっちが良いんだろう。よく……わからないや)」


 この世界に残された時間は少ない。その少ない時間の中で何をやればいいんだろう。考えてもわからなかった。

 知らなかった異世界に来て、竜を崇拝している国の中でしか生活していない凛が、そもそもシイリノエイという世界を分かるはずもなかった。


「(他の国にも行ってみようかな)」


 そうすれば、もっとわかるかもしれない。

 この世界で、凛がやらなければいけない事が。

 さっそくネイリールに許可を取ろうとしたが、その前に聞ける相手がいる事を思い出した。

 そろそろ、話せるようになっただろうか。あの時の子供たちは。

 どうなったか怖くて聞けなかったが、一番身近な他国で生まれた子供たち。ただ、凛が聞く事によって辛い事を思い出してしまうかもしれない。もしくは、まだ心が囚われた状態か。会っていない凛にはわからない。


「(テノさんに相談してみよう)」


 久しぶりに人が作ってくれた朝食を食べ終わった後、台所を借りた。10人程で食べるお弁当をイメージしながら手際よく作る。

 サンドイッチとおにぎり。他に詰められるものは全て詰めて、玉の中に封じ込めておく。これで形が崩れるという事はない。

 魔法の便利さを実感しながら、テノがいるであろう場所に向かう。

 テノは陽竜の恩恵持ちだ。他の竜よりも居場所が分かりやすい。



「(テノさんがあれだけオレに心を許してくれたのは、陽竜の恩恵を受けていたからかな)」


 陽竜は白竜の系統だ。白竜と黒竜が対であり、同等。その2竜が直接生み出した闇竜と陽竜は、白と黒の2竜に対し、特別な感情を抱く。

 繋がりが他の竜より強いのだ。





「(テノさんは…)」

 

 こっちの方に居そうな気がする。

 テノの存在を感じ取りながら歩いていると、突然、探していた気配が目の前に現れた。


「探してくれてたっすよね」


 疑問ではなく、言い切るテノ。


「探してました。あの時の子供たちに会いたくて…」


 凛にとってそれは疑問ではなく、当然の事。

 自覚をもった凛にとって、テノが凛の事を感じるのは当たり前だった。それが、自覚した凛の正直な感情。


「もう会えると思うっすよ。随分落ち着いてきたんで……所でリーンさん。俺からも聞きたい事があるんすけど」


 真剣な表情を浮かべたテノが、凛だけを見つめる。

 お互い、全てわかっていたのだろう。

 ただ、確認をしたいだけだったかもしれない。テノは祈るような気持ちで凛を見つめた。

 テノが今求めているのは凛の言葉だけ。凛の真実の言葉。


 テノは、凛が応えてくれるのを──…待っていた。






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