はじめまして異世界・1
ゲームや小説にあるトリップもの。
可愛い主人公がかっこいい男性と恋をしたり。
魔法を使ったり。
魔王を倒したり。
異世界で何で日本語が通じるの??
文字なんて書けないでしょ。
地球上ですらわからないのに、どうして??
姉に言ったら、それは女の子の夢なのよ!と少女マンガやゲームを渡され、理想の王子様を勉強させられた。
そういえばそうだね。
さっき、普通に会話してた。
異世界でも日本語なんだ。
共通なんだ。
ごめん。オレが間違ってたよ。
「・・・・・・って、あのミミズ文字、日本語じゃないよね」
目を開けて最初に飛び込んできた掛け軸らしきもの。正直言ってごちゃごちゃとミミズがのた打ち回ったかのようにしか見えない。
だが、この世界の文字だろうと思う。妙な確信。
キョロキョロと辺りを見回せば、自分のおかれた状況がありえないという事に気付いた。
シングルサイズのベットの上。
誰にいない静かな部屋。
机の上には美味しそうな朝食。
「・・・・・・」
普通に考えればこれは普通の部屋だ。
しかし、凛がおかれた状況を考えるとこれは普通ではなく、どうしたものかと首を傾げる。
元々の自分の部屋よりも広い異世界の部屋。朝食の隣には新聞紙らしきものも置かれているが、ミミズ文字が読めるはずもなくあっさりと放置を決め込む。
服に手をあててみるが、濡れた形跡さえない。
「魔法ってやつかな。・・・しかし、独り言が多いな」
顎に手を持っていき、考えるポーズ。状況を把握しても、今出来る事といえばたかが知れている。
「二度寝・・そうだ。二度寝だ。やった事ないけどやってみよう」
こういう時は寝てしまうのが一番だ。
首に巻かれた包帯を左手で確認しながら、もう一度ベットに横たわる。
次に起きたら、家のベットでありますように。
そんな事を願いながら目を閉じようとするが、この部屋に近付く足音にそれは叶わない夢だったとため息をついた。そんなささやかで慎ましい夢も叶えられないらしい。
流石次元単位の異端者だ。
そんな事を暢気に考えていたら、大きな音をたてて開けられる扉。
瞬間、赤色が目に飛び込んだ。
「(昨日の物騒な方だ)」
そして後ろには腹グロ。
「(二人いた…)」
表情一つ動かす事なく入り口を見つめていた凛に、赤髪の男は遠慮なくベットまで近付くと、凛の視線に自分のモノを合わせた。
「名前は?」
「(昨日名乗ったけど…)鈴風凛です」
男の名前をたずねようとし、やめた。
この世界に迷い込んで気が抜けたのか、そこまで興味がわかない。
知りたいと思う気持ちが何処かへいってしまったのか、凛はただ、聞かれる事だけに答えた。
「(力がない眼だな…)リーン・・・か。手当てはさせたが、まだ痛むか?」
名前の事にはあえてつっこまず、首の包帯を触りながら、
「大丈夫です」
にっこりと笑みを浮かべておく。
「そうか。これからの話しをさせてもらうが、後日、リーンにはあるお方──まぁ、黙ってても仕方ないか。陛下と会ってもらう。これからの事や疑問やわからない事があったらその時陛下に聞いてくれ。
それまでのリーンの身の安全は俺が保障する」
いいのか悪いのか判断に迷う言葉に、凛は重たい口を開いた。
「いいんですか? 陛下に会わせちゃっても・・」
その辺りの階位は地球とかわらないだろうと思うが、ふと思う。そんな人物と異世界人を二人っきりで会わせるわけがない。
沢山の兵に囲まれて尋問されるのだろうかと考え、無意識に胃の辺りを手のひらで押さえつけていた。
「問題ない。陛下は最強だ。あの方には傷一つ負わせられん」
だから心配するな、と豪快に笑う男──フェルに凛は感情の篭っていない瞳を向けた。この世界の最強がわからないのもあるが、殆ど言葉をかわしていない──むしろまったく──相手に保護される理由もわからない。
「フェルディナント・ロータス。俺はヒース・ロンド」
すると、突然後ろで様子を伺っていた緑の髪の男──ヒースが自己紹介を始める。
「陛下との謁見は一対一で行われる。その理由としては陛下が強いという事。もう一つは人が多いと分散されてしまう場合があるという事。
分散といっても攻撃が分散されるわけじゃない。
後は…俺はフェルの補佐として君の保護に携わる。接する機会は増えるだろう」
「・・・・・・」
「そっか。そういえば名乗ってなかったな。俺の事はフェルって呼んでくれ。一応騎士をやっている。ヒースは魔法士な」
明るい場所で見るとよくわかる。フェルディナントの人懐っこい笑み。
ヒースも常に笑みを浮かべているが、対照的でつい笑みが漏れた。
「「・・・・・・・」」
「仲・・いいんですね」
対照的に見えて、お互いが動きやすい位置を取る。
職業の違いかもしれないが、ヒースがフェルディナントの補佐をし易い場所へと立っているように見えた。
「俺たちを見てソレを言ったのは、お前が初めてだよ」
顔を伏せていた為表情を伺う事は出来ないが、暗い声だった。
音はフェルディナントのものだが、響きには翳りがあり、同一人物迷いそうになるが、フェルディナントしかありえない。
「対照的に見えますよね。真っ直ぐと腹グロそうで」
伏せていた顔を上げ、満面の笑みで言い切った言葉に、フェルディナントが吹き出した。
「は・・は・・腹グロ!!」
「・・・・・」
「まさしくその通り!! コイツ腹黒でさぁ。人当たりがいいから誰も気付かないんだぜ。
初対面でコイツの腹黒にってイテェ!!」
フェルディナントが飛んだように見えた。
ヒースがあげていた片足を下ろしている所を見ると、蹴ったのだろうと思うが、フェルディナントより細いヒースが蹴り飛ばした事に凛は驚いた。
「(魔法ってやつなのかな)」
凛にはよくわからないが。
「足の裏に魔力を纏わせて蹴ったんだよ。この方が余分な力を使わなくて済む」
「省エネですね」
「省エネ?」
「ヒースさんが言った、余分な力を使わない、です」
言葉は通じるが、やはり異世界。言葉の壁はあるらしい。
「ふーん。面白い響きだね」
凛の世界の事に興味がわいたのか、蹴り飛ばしたフェルディナントの事は既に眼中外である。
「フェル。リーンに街を見せてみよう。面白そうだ」
「・・先に俺に謝れ。流すな。俺じゃなかったら首の骨でも折ってるだろ」
右手を首筋にあて、首を左右に動かす。
その動作から蹴られ慣れている事がわかるのだが、
「(慣れていいの??)」
思わず、心の中で苦笑してしまう。