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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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幕間~テノのその後





 監獄の中。

 凛はフェルディナントに連れられ、早々に退場してしまい、残されたのはヒースとテノの2人だけ。


「で、リーンは何をしたの?」


 辺りを一通り確認したヒースが、誰よりも状況を分かっているであろうテノに、有無を言わさない表情と口調で尋ねてくる。尋ねるというより尋問に近い雰囲気なのだが、お互いがお互い、笑みを浮かべ穏やかな表情を浮かべる。

 思っている事は一緒だろう。


「医務室見てきたよ。あの魔方陣。見た事ないけど誰のオリジナル? まぁ、このパターンから言うとリーンなんだろうけどね。魔力の残滓はリーンのものだったし。

 あれ、普通だったら死んでるよね。ねぇ、テノ。詳しく話してくれていいよ」


 相変わらずの笑み。

 そして、ヒースらしいものの言い方。

 判断できる材料は揃っていても、それを繋ぎ合わせるまでには至らないらしい。それについて、テノは否定的な考えはしなかったが。


「(俺も見てなきゃ同じだったすよね~)」


 言葉にはしなかったが、ヒースはわかっているだろうと何も言わずに説明を始める。


「正解すよ。子供たちのここ――」

 テノは右手の人差し指で自身の胸の辺りをトントンと弾くと、

「陣はリーンさんのっす。ちなみに、一つの玉で同時にその陣を放ったすよ。後は姿を消す、防御、回復…っすかね。全て玉に刻んだ陣で発動してたっす。

 あの回復なんかは・・・・・下手すると死んでなければ復活出来るんじゃないすかね?」

 五体満足の子供たち。

 それらが、全てを物語っている。

「全然気づかなかったなぁ。玉を作ってるのも…ね」

 ヒースの沈んだ声は珍しいが、それについてフォローする性格でもないテノは、淡々と思った事だけを口にする。

「さっきリーンさんが言ってた台詞。本気なんじゃないすか? 見てたすけど、加減もわからないみたいだったっす。まぁ、加減を知ってたらあそこまで魔力を他人に見せないすけどね」


 目を細め、恍惚とした表情のままヒースに視線を流すテノ。

 その奥に宿る光は警戒が含まれる事に気づいたが、ヒースはいつもの表情を崩す事はなかった。


「そうだろうね。知ってたら、あの魔力は隠すだろうね。あの魔力は――特別過ぎる」


 凛が目覚めた後、ヒースは極めて冷静を装ってここに足を踏み入れた。

 そこに居たのは、凛とテノ。

 

 問題は、凛を取り巻いていた魔力。


 魔力に気づいた時、表情や口調を崩す事はなかった面の皮の厚さに感謝しながら、ヒースは右手を握り締めた。

 爪が食い込むが、今は気にならない。


「ヒース様ー。リーンさんに感謝した方がいいっすよ。あの魔力は俺たちにとっては特別っすから……貴方を狙う存在のやる気はそぐっすよ」

 肩をすくめ、テノはヒースから距離をとる。

「少なくとも俺は、貴方が怖いから――じゃない理由が一つ増えたっすね」

「……」

「リーンさんはヒース様たちを護るっすよ。分かっていて、俺はヒース様に喧嘩は売れないっすね」


 無造作に髪を掻きあげ、凛が残した魔力の流れに手を伸ばし、魔力を取り込む。

 やはり、凛の魔力はテノにとっては心地が良い。その時、テノの金の色彩がその範囲を広げた。が、掻き上げられた髪の変化は誰にも気づかれず、テノ自身も気づかなかった。





「医務室の子供たちはどうするの?」


 テノが凛の残した魔力を全て吸収した後、ヒースは疑問の言葉を口にした。


「脳以外を焼き切ろうと思ってたんすけどね。まぁ…報告して後は任せるす」

 こうして刺客という存在が生き残っているのが初めてで、生き残った刺客の対処なんて一切考えていないテノは、全てを丸投げした。

 あっさりと、迷わずに。

「そうだね。リーンは生存を望むかな」

「じゃないっすかね。だから俺は決めないすよ」

 テノの読めない表情にヒースは相変わらずだな、と肩を竦めると外套を翻し姿を消した。フェルディナントが屋敷に着く前にやっておきたい事があるのか、迷わず転移を使ってその場から存在そのものを一瞬で消す。

 いつものように、テノに言葉は無い。

 それがヒースらしくて、テノは何もなくなった監獄に背を向け報告へと向かう。





 初めて凛を見たときの感想といえば、容姿のいい人。人目を引くけれど、それだけの人。

 凛の髪の色はテノとは違い恩恵を預かっているようには見えず、凛と言葉を交わした時もこの髪の色で魔力がある事に驚いた程度。


「俺の探す力じゃないっすねー」

 

 結局、この一言で終わらせた。

 


 図書館で見かけた時、積み重ねられた本にも驚いたがそれよりもテノの視線を釘付けにしたのは、見慣れない文具の数々。

 興味本位で声をかけ、話すテンポの良さに舌を巻いた。


 そして、今。


 限界まで使われた魔力の色は、テノが捜し求めるモノ。

 テノ自身が受けている恩恵の、源の色。

 その色を持つ魔力は全てにおいて特別だったが、金の色彩を持つテノにとってはそれを遥かに上回るモノだった。


「取り合えず報告。で、陛下はどんな判断をくだすっすかねぇ」



 今日の出来事を報告するが、報告した後の陛下の采配も楽しみの一つだった。

 ただ、陛下の判断はテノの予想とは外れていたのは結構驚いたけれど。


 全ての答えは、凛と陛下の謁見の後。


 やっぱり謁見が必要な立場だったか、とか。

 まだしてなかったのか、など。色々思う事はあるのだが、行動制限は思ったよりもされていなかったので、その辺りだけはマシだったと思っていた。





 自宅に戻ったテノは研究室に閉じこもりながら、今まで起こった出来事をもう一度冷静に整理してみていた。

 考えながらも手は動かしているのは慣れだが、今日の研究はいつもとはかなり違う。

 凛から受け取ったノートとペンの研究。これに使い慣れているなら、この国で主に使われている羽ペンは使いにくいだろう。

 ペンの成分を調べながら、材料の成分表と合わせていく。


「型に流し込んで成型して…カートリッジってヤツは魔道具で対応か…圧縮? 押し出す力っすかねぇ。まぁ、取り合えずは魔道具対応で出来そうなんで、そっち優先す」

 ノートもペンもなんとか形にはなりそうで、それをどうやって報告しようかと悩まなかった事で悩んでしまう。



 テノしかわからなかった研究所の内部は何時しか片付けられ、主が飲もうともしていなかった茶器や茶葉が置かれるようになるのは、もう少しだけ先の話し。



「もう少しあの魔力を近くで見たいっすよねー…あぁ、そっす。玉っす」


 フェルディナントやヒースの保護下に置かれた凛をどうやって外に連れ出すか。良い考えが浮かんだとテノは身なりを整えはじめる。

 陛下直属ではないが、陛下の管轄である魔法師団の団長をやっているテノは、他の者に比べてお目通りが叶いやすい。

 凛の落としていった玉を大切に包み込み、懐へと忍ばせる。



 陛下の許可はきっと下りる。

 そう思うと、楽しみで仕方なかった。







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