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Aura - Lucent-シイリノエイ編  作者: 国見炯
第一章・シイリノエイ(完)
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凛と魔法師団団長・4


 無意識に自分の髪に触れ、男を見上げた。



「琥珀……いい響きです。

 凛様、俺の事はこれから琥珀と呼んで下さい」


 名を名乗らなかった男は、自分の事は琥珀と、今迄で一番嬉しそうな笑顔を浮かべ、凛へと向き直る。

「さ。続きをしましょうか?」

 琥珀が笑う。

 全てが嬉しいと言わんばかりに、全身から感情を滲ませて。


 こうやって見ると、琥珀の印象は幼く見える。

 白金の短い髪。所々長く、後ろは無造作に束ねてあるが、横の一部分だけが長い箇所には玉が色鮮やかな紐が巻かれ、琥珀が動く度に宙を舞う。

 光の加減によっては、白にも金にも見える、かわった髪と目の色。

 

 凛が一般的な女性の感覚を持つならば、琥珀と2人っきりの空間は耐えられなかったかもしれない。

 それほどに、琥珀の容姿は整っている。

 だが、そんな琥珀が相手でも凛は動じる事なく、琥珀の教えを一言も聞き逃さないように集中し、試していく。

 どちらかというと琥珀の言葉は、教えというよりはアドバイスに近いかもしれない。全てを教えるのではなく、凛自身に考えさせながら凛の魔法を完成させていく。

 凛が肩で息をし始めた頃、何処から出したのかわからないが、琥珀の前にはテーブルが置かれ、その上にはお茶の準備がされていた。

「休憩にしましょうか。このお茶、疲れがとれるんですよ」

 魔力の使用でいつもよりも動きが鈍くなっている身体を動かし、凛は琥珀が引いてくれた椅子へと腰をおろす。

 始めは自分で椅子を引くつもりで、琥珀の事は気づかないフリをしようとしたのだが、琥珀は凛の目の前へと手を差し出し、気づかないフリが出来ないように自分が引いた椅子へと誘導した。


 乾いた喉をお茶で潤してみる。

 今まで飲んだ事のないお茶で美味しい。美味しい、が。

「(なんだろう…この隙のない感覚は…)」

 見た目のイメージだけでいうなら、琥珀は騎士だ。

 しっかりとした肩に広い背中。綺麗というよりは精悍な、でも優男の印象を拭えないのは無駄のない引き締まった身体が、傍から見ると細く見えるからかもしれない。

 そんな琥珀だったが、自分の容姿には余り拘りがないのか、動きやすさを重視した格好で着飾ってはいない。

「どうかしました?

 聞きたい事があったら遠慮なくどうぞ。ね」


 にっこりと、どんな事でも聞いて、と言わんばかりの表情。


 尻尾があったら振ってるんじゃないかと思える程の笑顔。



「(大きな・・・・・わんこだ)」



 大型犬がいる。

 ふいに、そんな言葉が降りてくる。

 目の前の滅多にお目に掛かれない美形を、わんこ扱いしていいのか迷うが、美醜に興味のない凛には、自分に懐きまくっている大きなわんこにしか見えない。

 それに、わんこにした方がこの妙な緊張感が解れる気がする。


「・・・・・色々疑問はあるんですが…あり過ぎてよくわからないので、図書館で調べます」


 琥珀のは善意だとわかってはいるが、今回は何も聞かない事に決めた。

 図書館の膨大な書物。毎日通った所で読みきれるわけがなく、凛は聞くよりも先に本を読む事にした。聞けば楽だが、凛がこの世界に来てから何度か口にしたように、いっきに情報は詰め込みたくない。

 すると、琥珀は残念そうに、それと同時に面白そうな色を瞳に宿すと、

「凛様のそういう所は大好きです。ただ……あの場所じゃ肝心な事は何一つわからない」

 意味ありげな言葉を口にする。

 だが、凛にはその言葉に心当たりがあった。

「……情報の隠蔽…か」

 それは、図書館に通っていての一つの疑問。

 本を読んでいた時に、所々隠されている言葉があるのだ。あえて、言葉を濁しているといった感じに。

「そう。あえて、ですよ。俺が教えられる事は山ほどあります。凛様が知りたいと願うならこの世界の隅々まで」

「・・・・・」

 琥珀の言葉に、興味がわかないわけじゃなかった。

 だが、やはり凛の思いはかわらない。

「まだそこまで知りたくないです。

 情報はあっても困らない。選択の幅も広がるとは思います…が、今の俺には必要のないものです。

 琥珀さんの教えてくれた事だけで十分です。魔法の実験も、オリジナルの陣も、玉に関しても、本を読むだけじゃわからなかったですから」

 凛の考えを肯定するように琥珀は頷くと、

「そうですね。俺も少しずつ知っていけばいいと思いますよ」

 それは、琥珀の心からの言葉だった。それでも、凛が知りたいといえば止めない所か、本当に全てを教えてはくれるのだろう。

 穏やかながら底の見えない深さを感じさせる琥珀の表情は、相変わらず笑みだった。


 だが、琥珀はその動きを止め、穏やかな笑みを少しだけ奥へと引っ込めると、


「あぁ…でもこれだけは言わせて下さい」


 今までにない真摯な眼差しを凛へと向けた。


「色は、そのまま隠して下さい。この世界での色は、自身の象徴の力と直結します。

 今では染める事も可能ですが……自身が持つ色は染めるのでは得られない鮮やかさがあるので、わかる存在はわかります。色が現れる程強い力を示し、範囲によってはまた別の意味をもってきます」


「色と範囲…?」


 凛の読んだ本には、魔法の種類によっては色が違う、といった事ぐらいしか書かれていなかった。魔法の種類によって色が違うのは当たり前だと、たいして疑問にも思っていなかったが、それ以上の意味があるらしい。


「ただ…凛様」


 ここで琥珀の声のトーンが低くなり、伏せている為その表情を伺う事も出来ない。


 場が、今までにない程重たい空気に支配されるが、凛は琥珀から視線を逸らさずに見つめていた。



「傷つかないで下さい。俺はまだ傍観者なので、この程度の干渉しか出来ない存在ですが──貴方自身が傷つくなら………」


「琥珀さん?」


 最後まで聞く事は出来なかった。


 その前に周りの景色が歪み、映像がぶれ出す。



 琥珀の声音は、波に呑まれて消えていった。




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