表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/151

第16話「モーターが回らない理由」

(語り手:佐倉涼子)



「……えっと、これで、よし。……回れっ」


 カチッとスイッチを入れてみる。


 ……沈黙。


「回らない」


 私は思わずつぶやいた。隣で見ていた加奈子がのぞき込む。


「ん? 電気、通ってる?」


「通ってるはず。導線もつなげたし、電池も新しい……と思うけど……」


 私の目の前には、小さな手作りのモーター。

 授業の延長で作ってみた「直流モーターの基本モデル」だったけど、回るはずのコイルは、ピクリとも動かない。


 放課後の準備室。

 蘭子先輩は窓際の机で黙々と別の資料を読んでいる。

 でも、私たちの様子にさりげなく耳を傾けているのがわかる。


 私はコイルをそっと取り外し、指で支えながら回してみた。

 軽く動く。軸が詰まってるわけではなさそう。


「加奈子、もう一回配線見てもらっていい?」


「りょーかい! はいはい、プラスは赤、マイナスは黒、スイッチよし、電池よし……。

 ん? これ、ブラシがずれてない?」


「……ブラシ?」


「ほら、コイルの端の導線、銅線がうまく接触してない。てか、削れてないじゃん!」


 加奈子がぴしっと指摘する。


「あっ、そうか……!

 被覆剥がすの忘れてた……!」


 小さく笑いが起きた。

 私の顔は一気に赤くなる。


「も〜う、初歩ミスすぎる……!」


「いやいや、これが物理でしょ! “動かない理由”が見つかったじゃん!」


 加奈子の言葉に、少し救われる。


 そのとき、ふと扉が開いた。


「こんにちは~、あの、見学してもいいですか?」


 1年生の女の子が、恐る恐る顔をのぞかせた。

 後ろには、同じ制服を着た2人の友達も。


「え、えっと……うん、いいよ。今ちょうどモーターの実験してて……まだ回ってないけど……」


「回ってないんですか?」


「……うん。けど、なんで回らなかったかは、今わかったところ!」


 私は、勇気を出して説明してみることにした。

 目の前のモーターを指さしながら、できるだけ言葉を選ぶ。


「モーターって、磁石とコイルの“反発”で動いてるの。

 でも、そのためには電流が正しく流れて、しかもタイミングよく切り替わる必要がある。

 今回うまく回らなかったのは……コイルの端っこ、ここに絶縁の膜が残ってて、電流が流れなかったから」


「へぇ〜!」


 1年生たちが、思ったより興味を持ってくれた。

 そのとき私は初めて、“伝える”ということの楽しさを感じた。


 数分後。

 私は削り直した導線をもう一度つなぎ、スイッチを入れた。


 ――キュルッ……クルッ、クルクルッ!


「おおっ……回った……!」


 加奈子が拍手し、1年生たちが歓声を上げた。


「回った……やった……!」


 私は思わず、コイルを見つめながらつぶやいた。

 たったこれだけのこと。

 でも、「動くこと」の重みを、私はこの瞬間、確かに感じていた。


 帰り道、私はノートに書きつけた。


モーターが回らない理由には、いくつもある。

でも、“なぜ回らないのか”を探る過程には、確かに物理がある。

それを“誰かに説明できた”ことが、今日は一番うれしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ