エピローグ「その後の三人」
◆ 赤﨑 蘭子
大学では理工学部物理学科に進学。
最初の講義で教授に質問攻めにした結果、「名前覚えたぞ」と言われてひそかに喜んだ。
専門はまだ迷い中。熱力学にも光学にも未練がある。
高校時代に使っていた物理ノートを今もときどき開いている。
読み返すたび、あの実験の空気、あの瞬間の失敗が、鮮やかによみがえる。
ノートの隅にある、涼子と加奈子との寄せ書きが宝物。
「まだ“すべて”はわかってない。でも、わからないまま走り続けるのも、悪くないよね」
◆ 佐倉 涼子
教育学部に進学。将来の夢は「ちょっと変な理科の先生」。
大学の授業で教職課程を取りながら、学校ボランティアも始めた。
子どもたちに「なるほど!」と言われるのが嬉しくて、
つい話が長くなってしまうのが最近の悩み。
教育実習の下見で母校に訪れたとき、
物理室にそっと足を運んだ。
後輩たちの新しい実験ノートを見て、泣きそうになった。
「“わかる”って、静かに心が光る音。そんな瞬間を、私は誰かに届けたい」
◆ 徳田 加奈子
デザイン系の専門学校に進学。工業デザインとプロダクト開発を学びつつ、
趣味で個人製作のガジェットをSNSに投稿している。
動画はなぜか毎回バズる。「高校時代、爆発もしたしな」と笑っている。
大学の課題で「物理の仕組みを活かしたおもちゃ」を作ったとき、
ふとあの物理室の机が浮かんだ。
「作るとき、“わからない”があると面白い。
わからないから、想像できるし、手を動かしたくなるんだよね」
◆ そして——
あの物理室には、新しい1年生が集まり始めている。
古びたノートに、また新しいページが綴られようとしている。
3人は、それぞれの道を歩き出した。
けれど、物理研究会で過ごした時間は、今も彼女たちの中で息づいている。
答えは出ない。
でも、それでいい。
それでも、考え続けられるなら——
この物語はここで幕を閉じます。
けれど、問いを持ち、思いを綴る人がいるかぎり、
きっとどこかでまた、新しい「物理研究会」が始まっているはずです。
Fin.