第135話「三人で集まった休日」
(語り手:赤﨑蘭子)
「集合場所、ここでよかったんだっけ?」
そう言って加奈子が現れたのは、待ち合わせの10分遅れ。
手には何やら工具の詰まったトートバッグ。
大学で“謎の作業場”を立ち上げたという噂は本当らしい。
「ごめん、ゼミが長引いてさ」
涼子も駅の反対側から駆けてくる。
大学で教育実習の準備をしていると聞いていたけど、
その顔は、どこか高校のときよりも“先生っぽく”なっていた。
「さて、どこ行こうか」
誰も何も決めていない、ゆるい集まり。
でも、私はこういうのが、実は一番好きだ。
「科学館、行ってみない?」
と私が言うと、加奈子がすぐ食いついた。
「行く行く! 展示物いじれる系? ボタンとか押せる系?」
「そういうとこばっか行ってない?」と涼子が笑う。
電車に乗って、科学館へ。
展示のひとつひとつに、私たちはまるで子どものようにはしゃいだ。
「ねぇ、この磁力のやつ、前に私たちで作ったやつと似てない?」
加奈子が指さす。
あのとき、モーターが回らなくて、配線を3回組み直した日を思い出す。
「懐かしいなぁ」と私がつぶやくと、
涼子がちょっと照れた顔で言った。
「今なら、もう少しうまく説明できるかも」
展示室の片隅に置かれていた、古い“空気砲”。
中学生の団体が楽しそうにキャッキャ言ってる。
それを見たとき、加奈子が笑いながら言った。
「ねえ、これやったよね、廊下で」
「やった。廊下で怒られた」
「でも、あのときめっちゃ楽しかった」
私たちはそれぞれ別の大学にいて、
進む道も、これから向かう場所も違う。
でも、今日だけは、昔のままだった。
夕暮れ、カフェでお茶をして、
誰かが唐突に「また一緒に何かやりたいね」と言った。
「何を?」
と涼子が聞き返す。
「んー……なんか、面白いこと」
加奈子の答えは、昔と変わらず“ざっくり”だった。
でも、なぜかそれで十分だと思った。
面白いと思ったら、まずやってみる。
理由なんて、あとから考えればいい。
——それが、私たちのやり方だった。
帰り道、駅までの歩道を、並んで歩く。
夕陽が長く影を伸ばして、3つ並んだその影を見て、私は少しだけ泣きそうになる。
今はそれぞれの道を歩いているけれど、
こうしてまた集まれるなら、
あの3年間は、ちゃんと続いているのだと思った。
たった一日の再会。
でも、それは“もう終わった青春”ではなく、
今も、続いている物語のひとつの章だった。
電車が来る。
それぞれ別の方向に向かうホームで、手を振る。
「またね」
その言葉が、こんなにも優しく響く日がくるなんて、
3年前の私たちは、知らなかった。