第133話「卒業写真とエプロンと白衣」
(語り手:佐倉涼子)
卒業アルバム用の部活写真を撮った日。
正直、私はあまり気が進まなかった。
理由は簡単。
**「物理研究会って、写真映えしない」**って思ってたから。
隣の書道部や軽音部の子たちは、筆やギターを構えてキメてた。
華道部は花を持って、笑顔で並んでる。
でも、私たち物理研究会はといえば……
「……で、何持つ?」
「バネ……?」
「配線……は見栄え悪いな」
「っていうか、これ“部活”っぽく見えないよ!」
わちゃわちゃしてるうちに、撮影時間が迫る。
そのとき加奈子が突然言った。
「じゃあさ、エプロンと白衣、両方着ようよ」
「へっ?」
「研究会っぽいっていうより、“私たちっぽい”じゃん」
たしかに。
加奈子は、よく絵の具で汚したエプロンで装置を作ってた。
蘭子は白衣姿で理論をぶつぶつ唱えてた。
私はその間で、どちらにも染まりきれずにノートをまとめてた。
結局、3人で並んで——
蘭子は白衣、加奈子はエプロン、私はその中間の普通の制服で、
物理室の一番奥の黒板の前に立った。
カメラマンが構える。
「じゃあ、いきますよー。3、2、1……」
その瞬間、加奈子が言った。
「ねぇ、涼子。笑って」
私は思わず、くすっと笑ってしまった。
何が可笑しかったのか、今ではもう思い出せない。
でもそのときの私は、たしかに心から笑っていた。
カメラのシャッターが切られる音。
ピントが合っていたかどうかも、わからない。
でも、たぶん、いい写真になったと思う。
卒業式のあと、アルバムを開いた後輩が言ったらしい。
「この物理研究会の写真、なんか……“変だけど楽しそう”ですよね」
変でもいい。
実験がうまくいかなかった日も、ケンカした日も、沈黙が続いた日もあったけど。
白衣とエプロンの間で、私はずっと“私の居場所”を探してた。
そして見つけたのは、**変だけど温かい“3人の時間”**だった。
卒業写真の中の私は、
確かに少しだけ誇らしそうに笑っていた。