表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/151

第112話「3人だけの自由研究」

(語り手:佐倉涼子)



卒業まで、あと三ヶ月。

 受験と出願と、模試の結果に追われる日々。


 でもそのすき間で、私たちは“研究会らしいこと”をしたくなった。


 ある日の放課後。

 加奈子がぼそっと言った。


 「さ、最後に、さあ――“自由研究”しない?」

 「え、今さら?」

 「今だから、じゃない?」

 「……それ、いいかも」


 そうして始まった、三人だけの自由研究。


 テーマも時間も、誰に見せるわけでもない。

 提出先:未来の自分たち。


 ◆蘭子のテーマ:「音速のズレと教室の空気」

 ⇒ 同じ音が、教室の端と窓際で、わずかに届くタイミングが違う理由を、

  温度差と湿度、反響の問題から探る。


 ◆加奈子のテーマ:「バネと“やる気”の相関関係」

 ⇒ 自作装置で“やる気”の強さを測定できないか、

  バネの圧縮量と本人の主観を結びつけようとする半分ネタ・半分本気の研究。


 ◆涼子のテーマ:「“わかった気がする”の瞬間を測る」

 ⇒ 問題を解くまでの思考の流れを、紙と音声記録で分析。

  “理解”とは何かを、自分なりに可視化したい。


 「自由研究ってさ、夏休みにやらされるものだったけど」

 「今なら、“やりたいからやる”に変わったね」

 蘭子が言う。


 「でもさ、これ、ほんとに誰にも見せないの?」

 加奈子がノートをパラパラめくりながら言った。

 私は、少し笑ってこう答えた。


 「私たちだけが知ってればいいんじゃない?

  この時間が、“最後の研究”だったってこと。」


 静かな準備室。

 誰もこない夕方。

 紙の音、シャープペンの音、加奈子の独り言、蘭子のブツブツ。


 そのすべてが、愛おしかった。


きっと私たちは、来年から別々の場所で、

それぞれの“自由研究”を続けていくんだろう。


この3年間は、その序章にすぎなかったんだ。


 私たちだけの、最後の研究。

 それは、なにひとつ発表されないけれど、

 ちゃんと未来につながっている“仮説”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ