表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/151

第104話「涼子のモヤモヤ」

(語り手:佐倉涼子)



 進路調査票の〆切が近づいていた。


 蘭子は、志望理由書まで仕上がっている。

 加奈子も、“なんでも屋”という方向性で進んでいる。

 そのふたりが、当然のようにまっすぐ歩いているように見えたから、

 私は――焦った。


 「で、涼子は?」

 昼休みの準備室で、加奈子がチョコ棒をかじりながら聞いてきた。


 「……まだ、保留」

 なるべく軽く返したつもりだったけど、声の奥ににじんだのは、たぶん迷いだった。


 私はずっと、「なんとなく」で物理研究会に入った。

 でも、気づけば好きになって、レポートに熱中して、

 発表会ではスピーチまでした。


 なのに今、“この先どうしたいか”を聞かれると、

 言葉が出ない。


「研究も、工学も、教育も、なんか全部違う気がして……」

 気づけば私は、本音をもらしていた。


 蘭子は、そんな私をじっと見て、言った。


 「涼子が一番、“考えてる”気がする」

 「……考えてるだけで、何も決めてないんだよ?」

 「ううん、考えつづけてるからこそ、言葉に慎重になってるんだと思う」


 私は、ちょっと泣きそうだった。

 決まらない自分が、誰より遅れてる気がして、

 それを比べるのも嫌だった。


 でも、蘭子の言葉は責めじゃなくて、支えだった。


 「迷ってるのは、ちゃんと物理を見てるからじゃない?」

 加奈子も言った。

 「“よくわかんないけど物理好き”って、別に間違ってないと思うよ。

  むしろ、うちら全員そうだし」


 そうか――

 “迷い”は、好きな気持ちがあるから生まれるものなのかもしれない。


わたしは、まだモヤモヤしてる。


でもそれは、今までちゃんと向き合ってきた証拠。

答えを急がなくていいって、ふたりが教えてくれた。


 進路調査票はまだ空欄。

 でも、そこに書く言葉が“うそじゃない”ものになるまで、

 私はちゃんと悩みたいと思えた。


 物理って、そういうものだった。

 “わからない”を、“わかろうとしつづける”ものだった。


 だったら、進路だって同じだ。


 モヤモヤのなかでも、私は歩いてる。

 それを、ふたりが信じてくれている。

 それだけで、今は十分だと思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ