表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話「追放教師、悪役令嬢と会話する」

「……う、うぅ……頭が痛い……」


 少女は額を押さえながら、ふらりと体を起こした。


 俺は慌てて手を貸す。


「ちょっ、無理すんな。マジで倒れるって! 俺、保健の免許は持ってないからな!」


「……ありがとう、ございますわ……教師様……」


 相変わらず語尾に“わ”が付くタイプのしゃべり方だ。

 しかしその表情は、地味に可愛い。というか、やたらと育ちが良さそうだ。


「えっと……名前、聞いてもいいか?」


 少女は気品ある微笑みを浮かべて、スッと立ち上がった。

 その瞬間、風になびく金髪がスローモーション演出みたいになってて、正直ちょっと感動した。


「わたくしの名は──レティシア・フォン・アーデルハイト。元公爵令嬢であり、元王太子の婚約者……そして今は、“追放された悪役令嬢”ですの」


「長い!」


「なので簡単に、“レティ”とお呼びくださいな」


 いや、呼びやすいけどさ!

 その肩書き、情報量多すぎだろ!


 ていうか、お前も追放キャラかよ!

 なんだこの世界、追放しかしてねえのか?


 俺が混乱してる間に、レティはスカートの裾を整えてから、急に凛とした顔になった。


「……さて、まずはこの状況を整理しましょう」


「整理できる気がしないけど、どうぞ」


「まず、私は王都で“悪役令嬢”として冤罪により追放され、道中で盗賊に荷物を奪われ、現在所持金ゼロですの」


「待って、序盤から詰みすぎじゃない?」


「そしてあなたは?」


「俺は生徒たちと一緒に召喚された教師だったけど、スキル“黒板美化S”のせいで国から追放された」


「黒板美化……? S……? それって、スゴイんですの?」


「いや、ない。異世界に黒板は存在してない」


「致命的なスキルですわね」


 ここまでで、もうすでにヤバいコンビの気配が漂っている。


 レティは森の奥を見つめながら、ふと真顔になった。


「……教師様、こんな森で彷徨っているということは、食料は?」


「ナイフ一本と、パン一個。あと水筒に水がちょろっと」


「…………なんで教師なのに準備悪いんですの?」


「俺だって召喚される予定じゃなかったんだよ! てか、先生ってサバイバル担当じゃないから!」


「……仕方ありませんわね」


 レティはぐるりと周囲を見渡すと、なぜかドヤ顔で宣言した。


「ここから、私たちの“革命”を始めますわ」


「え、今すごく壮大なこと言わなかった!?」


「目指すは、王国転覆→ざまぁ返し→国政再編→世界再生ですわ」


「段階の飛び方がパワフルすぎる!」


「……でも、私も教師様も、このままじゃただのモブキャラですわよ?」


「ぐっ……否定できない……」


 彼女の目は、どこか本気だった。


 でも今は──革命の前に、パンを分け合ってる俺たち。


「ところで教師様……あなた、料理は?」


「お湯を沸かしてカップ麺を作るくらいなら」


「私、火魔法が少し使えますわ。カップはないけれど、お湯くらいなら……」


 ……もしかして、この二人で異世界生き抜けるんじゃないか?


◆ ◆ ◆


 数時間後。


 焚き火の前でパンをあぶりながら、俺たちは簡易なシェルターを作っていた。

 レティが木の枝に指を伸ばして、ちょちょいと**貴族風フリル結界(仮)**を張っている。地味にすごい。


「教師様、こちらのパン──半分焦げました」


「俺のナイフが悪い」


「いえ、たぶん火加減の問題ですわ」


「あとで説教(B)スキル使っていい?」


「そのスキル、私にもある気がしてきましたわ」


 こんなやり取りを繰り返すうちに、いつの間にか日は暮れて、空に星が瞬いていた。


 ──追放された俺と、追放された彼女。


 出会ったばかりのはずなのに、不思議と安心感がある。


「……あのさ、レティ」


「なんですの?」


「お前、“悪役令嬢”って自分で言ってたけど、本当にそうなのか?」


 レティはしばらく黙ってから、小さく笑った。


「いいえ。違いますわ。──私はただの、都合よく悪者にされた令嬢ですの」


 静かな夜に、焚き火のパチパチという音だけが響いた。


「……俺もさ、ただの教師だったのに、“役立たず”って言われて……情けなかった」


「わかりますわ……その気持ち。だから──」


 レティは俺の手をそっと握った。


「これからは、一緒に頑張りましょう? 教師様」


「……ああ。任せとけ」


 こうして、俺たちの小さな“レジスタンス”が誕生した。


「……ところで教師様」


「ん?」


「この近くに“初心者向けダンジョン”があるそうですわ。安全で、素材も取れて、食料もある程度確保できるとか」


「え、なにそれ便利……って、ダンジョン!? 俺たち今、レベルゼロだぞ!?」


「パン一個生活を続けるか、モフモフスライムから素材を回収するか──選びなさいませ」


「お嬢様、脅しが上手いですね……」


「お褒めに預かり光栄ですわ!」


 こうして俺は、**異世界の最弱ダンジョンに突入することになった**。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ