*第三十五日目 六月十五日(日)
五時の目覚ましで目を覚ます。
窓外の景色は水田地帯。すぐ先を、鉄道が走っている。「JR予讃線」。
本日の天気は曇り。天気が良ければ、海と山で良い眺めなのだろうが…背後の山々は霧に煙り、向かいの海側も霞んでいる。あるはずの「石鎚山」も瀬戸内海も、まったく見えない。
霧とは言っても、晴れ上がるような霧ではない。いつまた降り出してもおかしくない空模様。今のところ、水田に張られた水を見る限りでは、雨粒は落ちていないようだ。
今日一日、こんな天気でいいから、もつ事を祈る。
「さてと…」
トイレと歯ブラシ以外の準備を済ませて、六時に1Fの食堂へ。
(お風呂は営業前。だから朝食は宿泊客のみ)。
朝からおばさんの団体が、生ビールのジョッキを並べている。
『元気だな~』
感心してしまう。こちらは何だが…疲れが溜まっているし…天気も悪いし…で、ドロ~ンとテーブル席に着く。
メニューは、カレーコロッケ(レタス添え)・生卵・等々、値段の割に豪華…だったという記憶。ボケーッとしていたので、よく憶えていない。
食後、フロント横のトイレに寄って、部屋の洗面台で歯を磨いて…少々出遅れたが、六時四十分に宿を出る。
先ずは宿前の国道を横断して、「前神寺」前へ。
ここから昨日来た道に入り、遍路道をさらに先へと進む。左手に、ユキちゃん達が泊まったのであろう、古い宿が見える。
そこから少し行った所に、道が多少入り組んでいる場所。遍路道はここで右だったのだろうが…すぐ先に見える国道につられ、左の方に行ってしまう。
右折で「国道11号」に入り、日曜・朝の国道を歩く。ずっと歩道があるので楽だ。
(主に左側歩行)。
左手先に「西条市」の市街地が広がり、右に「石鎚山系」の山影がうっすらと浮かび上がっている。
(この時点では、天気は回復方向かと思われたのだが、むしろ悪い方へ)。
「加茂川」という広い川を渡り…「天皇」なんて大そうな名前の地区を通り(何と読むのかはわからないが)…しばらく歩いた酒屋の前。まだシャッターの下りた店先の、コンクリート段差に腰掛け缶コーヒー。
時刻は、宿を出てから約一時間の七時四十五分。国道を走る車の流れを見ながら、ここで十五分ほどの休憩。
向かいは、「本日休業」の中規模の工場。今日は日曜日。国道を走る車の数も少な目だ。
そこからも、テクテクと国道を歩く。
「室川」を越え、そこから3~4キロ行けば「新居浜市」に入る。
そこから1キロ足らず。「渦井川」を渡った先。「中萩」という地名の所で、歩いていた反対側、道路右側に「へんろマーク」発見。ガイド・ブックにも記載のある場所。所々に「旧市街」と書かれた道路標識のある、右の旧道へ。道幅は狭いが、所によっては通行量もある。地元の人に迷惑をかけているようで、何だか歩きづらい。
旧道に入ってから2~3キロ。河川敷が緑地に整備されている「東川」。時刻は九時二十五分。ちょうど良い。ここの川原に下りて、二十分ほどの休憩。
そこからさらに2キロ弱。段々と街並が深くなり、「尻無川」を渡った先に「喜光地」の商店街。車不可のアーケードに入る。
曇天の日のアーケード街は少々薄暗いが、車の心配も無いし、変化も活気もあって良い。そうそう、ここの入口手前で、杖を突いたおじいちゃんに声を掛けられた。
「お参りなされとるのかね?」
「はい」
「儂は三回回って、戦争で三度死にかけたが助かった」
「…」
「その後、三回回って、三回病気をしたが、こうして生きとる」
「…」
「あんた幾つだね?」
「四十二です」
「儂はその倍じゃ」
「…」
「頑張ってお行きなさい」
「はい、有難う御座います!」
四国というのは、そんな所。
繁華街を出ると、徐々に住宅地へと移って行く。「国領橋」で「国領川」を渡る頃には、緑も増えてくる。
竹竿を売る、「岡山」ナンバーの銀色の小型トラック。拡声器から流される録音テープの文句は、お馴染みの「たけや~、さおだけ~」。
(このセリフは、全国共通なのか?)。
その車がウロウロしていた「船木」の集落の先で…旧道はトータル7キロほど…再び「国道11号」に戻る。道はそのあたりから、若干の上り。
国道に入ってすぐの所に、「700メートル先」にコンビニありの看板。進行方向左手。
そこまで行って、お昼のおにぎりと焼きそばを買っていると…店の外で、こちらの姿を認めてニヤニヤしているTさんとユキちゃん。
こちらより一時間以上早い「五時半」に出たそうだから、いつの間にか追い越していた事になる。多分こちらが、そうとは知らずに国道を歩いていた区間、距離の長い旧道を行っていたのだろう。
時刻は十一時を過ぎた頃。腹が減っていたので先に行ってもらう。
コンビニ横の、森林公園の方に入ってみるが…入口付近。雨が染み込んだ腐りかけのベンチが、雨露でビッショリ濡れた草むらの中にあって…不安が募る。公園のメインは、まだまだ先のようだし…良い場所が無かった場合、戻って来るのも面倒だ。
すぐに国道に戻り、まだ前方に、Tさんとユキちゃんの後ろ姿が見える国道を上る。
徐々に追い付くが…腹減った…峠の手前の右側に、店をたたんだラーメン屋。並びに自販機コーナー。閉店した店の前に腰を降ろし、おにぎりと、温めてもらったばかりの焼きそば。
そこに、自転車の遍路さんが追い付いて来た。フツーのママチャリに荷物を積んだ、坊主頭のフツーのおっさん…と言っても三十代? この手の人は、年齢不詳の人が多い。多分、昨日、「六十一番 香園寺」の「奥之院」近くの休憩小屋を占拠していた人物だ。
「雨が来るよ。土砂降りになる」
確信めいた口ぶりで、そう言い残して走り去る。
『ふ~ん』
結局、そうはならなかった…がしかし、あの人は土砂降りに遭遇したかもしれない。そんな「もの」を持っていそうな感じだった。
(自分ではどうにもならない「業」を背負った人というのも、いるものだ。自分では何もしていないのに、不幸が向こうから、ネギを背負ってやって来る。何がしかの宗教団体に所属している人には、そういったものを持っているケースが多い…が、それもわからないでもない。中には、何か「すがる」ものがなければ、生きていく事さえ困難だと思われるほどの人もいるのだから。どちらにしろ人間なんて、それほど強い生き物ではない。それら…何がしかの団体に属する事…をバネに、社会でもそれなりの富や名声を築いている人がいる事も確かだ。だから、ここで批判や意見をするのは止めておこう)。
そこで、十二時までの三十分間ほど食休み。
そのすぐ先から、道は下りとなる。下り切ったあたりは、隣りの「土居町」。景色が開ける。
そこで「へんろマーク」に従い、右の旧道へ。入ったばかりの左側。先に見える民家で葬式が出たようだ。黒服の人達が多数見える。
「関川」を渡って「関川」の集落を抜け、しばらく歩いて「国道11号」を横断。その先で「JR予讃線」の踏切を越える。
そこから一キロほど。水田地帯を歩き、「浦山川」を渡り、再び「予讃線」を越えた先。「土居駅」が近くなり、段々と家々が増え出した頃、左手に番外霊場「摩尼山 延命寺」。
時刻は…はっきりとは憶えていないが、午後二時代。お昼の休憩から二時間以上。距離にして7キロほどは歩いた。
休憩できる場所があるかもしれないし、『せっかくだ』と入ってみる。
ここは、本尊に「地蔵菩薩」を祀り、宗派は「真言宗御室派」。
ここには、「弘法大師」縁の「いざり松」がある。
弘仁年間(810~824)、「弘法大師」が境内に苗松を植え、再度当寺を訪れた時、松の木の傍らに居た足の不自由な人に霊符を授け加持すると、足が立ったと云う。
境内はそれほど広くはないが、カメラとDVDを撮りまくっているおじさんがウロウロ。
東屋風屋根付き休憩所には、先ほどの自転車遍路さん。お接待のおばさんと話をしているが…本当にわかっているのか、いないのか? もしかすると、ただの独りよがり?
『まあいい』
とにかく…『疲れた』。こちらも、そこに腰を降ろす。
すると、納経所からTさんとユキちゃんが現れ…おばさんからはパン、Tさんからトマトのお接待を受けていると…そこに、昨日シャックリを連発していた例の女の子がやって来て…Tさん・ユキちゃんとはすでに顔見知り。昨晩三人は、同じ宿だったそうだ。
名前は「ナオちゃん」。東京から来た、ユキちゃんと同い年の二十五歳。
急に人が増え、賑やかになる。
やがて…お接待のおばさんは、付近の草むしり。
自転車遍路さんは、「土居の駅が泊まれるそうだ」と語っていたので、今晩はそこで寝るのだろう。
こちらは…何となく、Tさん・ユキちゃんと共にお寺を出、Tさん・ユキちゃんの順でしんがりを務める事になる。
でも、ツルんで歩いていると…ペースはともかく(特別速くはないが、その後、特に休憩する事も無く…途中、ユキちゃんが民家でトイレを借りたのと、酒屋に二度寄っただけ)、延々と歩き続ける。
こちらは、何となく着いて行っている…といった感じで、周りの景色も良く憶えていない。ただ、道は旧道をまっすぐ。
やがてナオちゃんが追い付き、しばらく四人で歩く。この二人…ユキちゃんとナオちゃん、『こういったタイプの女の子、今でもいるんだな~』。今も昔も(と言っても二十年ほどだが)、大差は無いのだろう。
そのうち、鈴を「チリ~ン・チリ~ン」と鳴らすナオちゃんに先行してもらってからは、また三人。
かなり長い11キロのほどの道程を歩き、「伊予三島」の街に入る。時刻は四時半。
二人に従い、市街地の同じ宿に入る。ビジネス旅館といった感じの宿。そのせいか、日曜の今日、他に宿泊客はなさそうだ。
そこの二階に各々の部屋。ただ、日曜日の夕食はやっていないとの事。「後で食事に出よう」となる。二人に合わせて、朝食も抜きの素泊り。
Tさん・ユキちゃんに先に風呂に入ってもらい、その間、本日の記録を少々。
風呂でパンツだけ手洗いし、風呂上り、揃って駅の向こうまで夕飯に出る。
健康ランド前に広い駐車場。その周りに、焼肉・中華・イタリアンなどの店が建ち並ぶ場所。
その一角の和食レストランに決定するが、かなり混んでいる。少しおもてで順番待ち。
テーブルに着くと、先ずは三人共「生ビール」。おつまみや食事になりそうな物を注文し、居酒屋気分。ビールの後は、Tさんの好みで日本酒。二人とも、けっこう打ち解けてきた。
その後、コンビニで明日用の食料を買い込みつつ宿へ。
それからTさんの部屋で二次会。さらに日本酒で少々やるが、十時前にはお開き。
二人は明日、五時発との事。こちらは明日、五時起きの予定。
今日は天気も悪く、お寺も無し。でも、人付き合いの点で変化のあった日。
十時を過ぎていたが、本日の記録をザッと仕上げて床に就く。
明日は登りもあるし、天気も期待できそうにない。キツイ一日になるかもしれない。でも、最後の…文字通り「山場」。
身体も気分も疲れ気味だが、ガンバリましょう。
こんなままの自分でいいのか?
そんな思いで色々な事をやってきた。
このままの自分で終わりたくない!
せめて最期くらいは、心安らかに迎えたい。
本日の歩行 40・56キロ
52677歩
累 計 1245・63キロ
1618267歩




