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第四話 過去になかった投稿

善希との仲直りデートから数日。あれから善希との仲は良好だ。

今のところLINEや電話でのやり取りのみだが、喧嘩する事もなく、それなりに楽しく過ごしている。


そんな日常が続き、油断し始めていた雪枝。ふと匂わせちゃんのインスタを覗いてみた。

更新されている。



『好きな人から紅茶セット頂いちゃった!タンブラーと一緒に♡この紅茶のブランド、私も大好きだから凄く嬉しい!大切にします♡』


「・・・・・。はァァァ!?」



叫んだのも束の間、雪枝の思考は停止してしまう。見た事のない事例だ。本来の時間軸ではそんな投稿はなかったはず。

少なからず雪枝は動揺する。



(こんなのあったっけ?確かに善希は無類の紅茶好き…。それにこのブランド、善希が前に言ってたオススメのやつだ。)



紅茶好き同士で意気投合したのだろうか。

いや、そんな事よりも…


何故、本来の時間軸(過去)に見た事のない投稿が?


もしかして仲直りデートの時、違う店に入った事で未来が変わり始めてる…?



けどこれ・・・・どっちだ。


良い方向の変化なのか、悪い方向への変化なのか分からない。

この間のデートから雪枝達の雰囲気は悪くないと思われるが、このプレゼントは一体…。

実は浮気じゃなくて二股してた、とか?


いずれにせよ、腹が立つ事に変わりはない。雪枝のスマホを握る手に力が入る。



だがそこでふと気付く。自分に芽生えた感情に。



「!」

(私…まだ怒りの感情、残ってたんだ…。)



本当にどうでも良い相手なら、他に女性がいようがいまいが怒りなど沸かないはず。

善希への想いなど、とうの昔に枯れ果てたものだと思っていたのに。


いや、これは己のプライドの問題だ。

自分が甘く見られている事に対する怒りだ、そうに違いない。

決して浮気(二股?)をされて嫌だという気持ちじゃない。断じて!

雪枝はそう自分に言い聞かせる。


絶対に負けない。目にもの見せてくれる…!


そう胸に誓い、雪枝はスマホを閉じた。



◇◇◇◇◇



このプレゼントに関する事実確認は必要だ。

善希の事を信じたい、というわけではない。あざとい女の事だ。プレゼントを貰ったテイで自ら買って投稿という自作自演の可能性もなくはない。

そんなハッタリに踊らせれるのはゴメンだ。


仕事終わり、雪枝は善希を呼び出した。



「ごめんね、急に呼び出して。仕事大丈夫だった?」

「最近は全然忙しくないから大丈夫。今日はどうした?」



善希からの質問に雪枝は笑顔で答える。



「ちょっと買い物に付き合ってもらいたいんだけど、良い?」

「それは全然。何買うの?」

「善希に勧められた物だから。善希に訊いた方が良いかと思って。」



そんな会話をしながら二人は歩き出す。

そうして二人は紅茶専門店、善希が匂わせちゃんにプレゼントした紅茶の店へと入った。



「ここだよね?前にオススメしてくれた紅茶って。」

「!」

「最近仕事疲れが酷いから紅茶で癒やされたいなって思って。」

「…覚えててくれたんだ。」



善希は一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐさまその表情をほころばせる。

嬉しそうな顔を浮かべる善希に、雪枝はたじろいでしまう。想定外の反応だ。


紅茶を勧められた当時、雪枝は紅茶に然程興味はなく、適当な言葉で流してしまっていた。よくよく思い返せばかなり熱の籠った口調で勧められていた気がする。

それだけお気に入りの紅茶を、軽く受け流されたと思いきや、きちんと覚えていたという雪枝に感動したらしい。


もっとも、雪枝自身はその紅茶が気になって覚えていたわけではなく、匂わせちゃんの投稿で思い出したにすぎないのだが。


これはもしかしてシロか?


いや、本人は雪枝(わたし)が匂わせちゃんの存在を知っている事など知る由もないはず。ただ単に気付いていないだけかもしれない。

そう思った雪枝は、ひとつカマをかけてみる事に。



「ねぇ、これはどうかな?美味しい?」



そう言って雪枝が手に取ったのは、善希が匂わせちゃんにプレゼントしたとされる限定のフレーバーティー。

それを目にした瞬間、善希の表情が凍り付いた。



(やっぱり…。)



その表情の変化を雪枝は見逃さなかった。人間、咄嗟の状況には本音が顔に出てしまうものだ。

善希は少し慌てた様子を見せつつも平常心を取り戻したのか、別の紅茶を指差しながら答える。



「あー…どうなんだろ。俺、フレーバーティーってよく分かんなくて。こっちのキャラメルがオススメかな。毎日飲んでる。甘い香りがするから仕事の疲れも癒せると思うよ。」

「そう。じゃあそれにしよっかな。」



匂わせちゃんが投稿していたタンブラーも手に取ってやろうかと思ったが、流石にやりすぎはバレる可能性がある。雪枝は事実確認に留める事にし、何も知らぬフリで笑顔を張り付けた。



◇◇◇◇◇



とある水曜日。

本来の時間軸では、この日の翌々日(金曜日)、善希が匂わせちゃんと仕事終わりにデートする事になっている。

インスタに、『好きな人に素敵なBarに連れて行ってもらっちゃった♡』との投稿が上がっていたのだ。


善希は会社の飲み会があると言っていた。

彼は営業職。社内や得意先との飲み会があるのは当然だし、いちいちそれを確認したり追及した事はない。雪枝は営業職ではないとはいえ、それなりに付き合いはある。自分に置き換えて考えれば理解出来た。

だが、実際はその盲点を突かれていた。そう思うと何ともやるせない気持ちになったのを覚えている。


今回も同じなのだろうか。


考えると胃が痛くなってくる。

雪枝がモヤモヤした気持ちを抱えていると、善希からLINEが届いた。



『明後日は部署の飲み会があって、夜電話出来そうにないんだ。』



やっぱり来た。

問い詰めたい気持ちは募るが、ここで追及しても仕方がない。喧嘩になるのがオチだ。

雪枝は気持ちを押し殺して返信を打つ。



『そうなんだ。遅くなりそうなの?』

『どうかな。割と皆悪乗りするから。そのまま二次会まで引っ張られるかも。』



二次会で彼女をBarに連れて行ったのか、そもそも“部署の飲み会”自体が嘘なのか。現段階では計り知れない。



『まぁ営業だもんね、仕方ないよ。』

『その分、土日埋め合わせするから。』


「!」



当時は『埋め合わせする。』なんて一言はなかった。雪枝は目を丸くする。

…いや、もし匂わせちゃんとの関係が二股なら、それぐらいしても当然かもしれない。油断は禁物だ。


ひとまず雪枝は『土日も二日酔いでしんどかったりしたら無理しないでね。』とだけ返して思考を巡らせた。



(確か匂わせちゃんの投稿では、“魚王座”って居酒屋の後にBarに行ったんだっけ。)



もし部の飲み会が本当なら、匂わせちゃんは善希の同僚、もしくは後輩。(二人の雰囲気・性格的に先輩というセンは薄そうだと判断。)

どちらが誘ったかは不明だが、飲み会の後に二人で二次会を開いたという事だろう。


匂わせちゃんが同僚等ではない場合は、一次会から二人きりだったという事になるが…。


いずれにせよ、店の情報は割れている。雪枝は事実を確かめに行く事にした。

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