表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第十二話 体調不良

「なんで来てんの…。」

「!」



ドアが開き、中から出てきたのは善希。

善希は熱さましのシートをおでこに貼った姿で、雪枝を気遣っているのか、マスクも着用してくれている。



(本当だったんだ…。)



善希の姿を見た雪枝は内心安堵のため息を漏らす。

だが、それは雪枝の事情の話。出てきた善希は見るからに具合が悪そうだ。明らかに熱のある顔色。決してホッとして良い状態ではない。

雪枝は善希に尋ねた。



「熱は?」

「別に、大した事ないし。」

「じゃあ家にあがっても問題ないよね。」

「あっ!ちょ、待てって!」



雪枝は半ば強引に善希の家に上がりこもうとする。善希はそんな雪枝の腕を掴んでそれを阻止しようとした。

先程の安堵は一転、雪枝の中に再びもやもやした嫌な考えが過ぎる。腕を引かれた事で雪枝は足を止める。そして俯いた状態で口を開いた。



「…あがられたら、困る理由でもあるの?」



消え入りそうな声で言葉を押し出す雪枝を見て、善希は一瞬目を見開いた。その場に沈黙が降りる。

その沈黙が更に雪枝の不安を仰いだ。この後、あの女が来る予定なのだろうか?そんな考えばかりが浮かんでしまう。



(だめだ。今、善希の顔、見れない…。)



善希の表情によっては、涙が零れてしまうかもしれない。

涙のワケを悟られてしまえば、そのまま別れ話になってしまうかもしれない…。


それを拒む自分がいる。


だが、涙で拒む自分になるのは嫌だった。

涙で同情を引くような女にはなりたくない。

涙で縋り付いているように思われたくない。


真実を確かめに来たはずなのに、真実を知ることに臆病になっていた。


そして少しの沈黙の後、善希が口を開いた。



「…38度。熱、あるから。」

「!」

「単なる風邪か、インフルかも分かんないし。移したら悪いし、帰れよ。」



そう言って善希は雪枝の腕を掴んでいた手を離し、部屋に戻ろうとする。だがその時、熱の影響からか、善希は足元をフラつかせて倒れそうになった。雪枝は慌てて善希を支える。



「ちょ、大丈夫!?寝てなよ。ご飯作るから。風邪で動けないなら、ろくなもの食べてないでしょ。」



チラリと善希の部屋の中を覗き見ると案の定、テーブルの上にはコンビニ弁当のゴミが散らかっている。

善希はお菓子作りは出来るが、料理はてんでダメ。漫画に出てくるような料理の才能ゼロ人間だ。ミスの十八番は砂糖と塩の間違い。流石に魚の頭や骨をそのまま料理に入れたりはしないが…そこまで料理スキルがない為、魚料理をしないだけだとも言える。


体勢を整えた善希は雪枝の手を振り払って部屋へと戻ろうとする。



「いいって。」

「こんな状態の善希見て放って帰れないよ。」



雪枝は頑なに善希を離さずにいた。

潜在的な力が強いのは当然、男性の善希だ。普段なら雪枝の手などすぐに振り解ける。だが今の善希は雪枝の手を振り払いきれない。それほど善希は弱っていた。

善希は引き下がらない雪枝を前に眉をひそめる。そして少し言いづらそうに視線を逸らした。



「…楽しみにしてたじゃん。」

「?」

「今度また新商品のプレゼン、あるんだろ。ただでさえ病み上がりなのに。移して雪枝がまた体調崩したら嫌だし。」

「!」


(そんな事、考えてくれてたんだ…。)



ぶつぶつと独り言のように話す善希だが、それが逆に真実を物語っている。本音だからこそ、話すのが恥ずかしい。善希の性格が表れていた。

そんな善希の姿を見て、きゅっと胸が締め付けられるような思いになる。

雪枝は善希の手を引き、本人には構わずズカズカと部屋へ上がり込んだ。



「おい、俺の話聞いて…」

「善希は寝てて。私なら大丈夫だから。私の事が心配だって言うなら早く良くなって。」

「雪枝…。」



善希を無理矢理ベッドに座らせた後、雪枝は体温計をずいっと差し出した。



「とりあえず、もう一回熱計ってみて。」

「えっ!?いや、さっき計ったばっかだし…」

「いいから。」

「・・・・・。」



善希はベッドに入りながら、しぶしぶ言われたとおりに熱を測る。ピピピッと音が鳴り、慌てて体温計を隠そうとするが、雪枝に取り上げられた。



「!? ちょ、39.4度じゃない!」

「・・・・・。」



この顔は39度超えを知っていた顔だ。恐らく、39度を超えている事を雪枝が知ってしまえば、看病すると聞かないと思ったが故の嘘なのだろう。気まずそうに視線を泳がせている。

だからインフル等を懸念していたのか。雪枝の中で腑に落ちるものがあった。

雪枝は、ハァと息を落として呆れ顔を浮かべる。



「病院は…もう診察時間終ってるか。なんで朝行かなかったの?」

「こんなフラフラの状態で行けるわけないだろ…。」

「あ、そっか。」



流石に39度を超えた状態で一人で歩くのは不安だろう。しかも病院がすぐ近くにあれば良いが、善希の家からは少し離れた場所にある。とてもじゃないが、歩いて行けるはずがない。道中で行き倒れそうだ。

かといって車や自転車というのにも不安がある。事故を起こしてしまったら取り返しがつかない。それを理解した雪枝は、それ以上は追求しなかった。



「とりあえず寝てて。」



善希の家に来る事を決めた時、雪枝も善希を100%疑っていたわけではない。(まぁ正確には信じたい気持ちがあった、といったものだが。)

体調不良が本当だった時の事を考え、食材は持参していた。

先述したとおり、善希は全然料理が出来ない。普段、一緒に過ごす際には雪枝が料理をしている。いつもの流れで、冷蔵庫の中にある調味料を取り出そうとする。

扉を開けようとしたその時、善希は慌てて雪枝に制止をかけた。



「わっ!ちょ!!ダメだ、開けるな・・・・っ!!」

「!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ