第一話 神の導き
風が吹いている。背中に感じる草が気持ちよく、ずっと寝ていたい。が、今の自分の状況を思い出し、目を開ける。そこは、元の世界では考えられなかったような広い空が広がっていた。
「目が覚めたかい」
後ろから声をかけられた。体を起こし、声がした方を振り返る。そこには、褐色肌の20代前半の青年が立っていた。白髪だが、不思議とそれが似合っている。
ただ、どことなく人間離れしているようで、少し怖かった。
「あなたは...」
いまだにぼんやりしているが、声をかける。
「私はミカエル。この世界の最上位神にして、転生者を導く役割を持っている。」
ミカエルだと?キリスト教の天使にそんなのがいた気がする。というか人じゃなかったのか。あの感覚は本当だったのだな。
「ミカエルって...」
「ああ、君の世界にも"ミカエル"はいるが、私とは別人だよ。
その世界の最上位神が"ミカエル"を名乗ることがルールなのだよ。」
そんなルールがあるとは...しかし、自分はかなり寝てたのか?以前ずっと感じていた疲労感がまったくと言っていいほどなくなっている。
「自分はどのくらい寝てたんですか?」
「そうでもないよ。君の世界でいう30分くらい?
身体的・精神的疲労は世界を渡った時点でリセットされるんだよ」
そういえば、クレアさんと会ったところでもなかったような気がする。
「あぁ、そうそう。この転生システムは、さすがにかわいそうな子を救済する、という目的で作られたんだ。ただし、記憶が残るので、それがマイナスの方向に働いてしまうことがある。
都合よく記憶を消すことはできないので、そうなるとこのシステムの意味が薄れてきてしまってね。そこで、いくつか能力を与えよう、ということになっているんだよ。
こういうのがいいとか、リクエストある?」
一気にいろいろ話されたせいで頭が追い付かない。
それを察してくれたのかミカエルさんも待ってくれていた。
「落ち着いたかい?」
「はい、なんとか。」
「それで能力のリクエストなんだが...」
「それはですね...」
いくつか便利そうなのを考えてみたので、とりあえず言ってみる。
「3つあるんですけど、
『見ただけでそれが何なのかわかる能力』『いつでも記憶を思い出すことができる能力』
『別の空間に荷物を置いておける能力』はできますか?」
「いや、可能だよ。でも3つでいいの?五つも六つも欲しがった人がいたけど」
ほかの人、というのは例の条件を満たしてしまった人だろう
「それでは君に、複合能力:図書館を授ける。これは今君が行った能力
『分析眼』『完全記憶』『亜空間収納』が入っているよ。使い方は...感覚でわかるだろう」
この瞬間、自分の体が変化したのを感じた。
自分の心の奥から力がわくような、そんな気がしたのだ。
「ありがとうございます」
そういいつつミカエルのほうを見ると、灰色の半透明なものが見える。そこには、いくつかのことが書かれていた。
◤名 前:ミカエル
種 族:神─最上位神 能力:能力管理
ステータス:なし ◢
おそらくこれが図書館の能力なのだろう。少し邪魔なので、「消えろ」と念じてみると消えた。
「うまく使えてそうだね。使っていくうちに慣れると思うよ。」
「ありがとうございます」
「それと、これを渡しておくよ。」
そういって渡されたのは、『神繋がりの笛』だった。ホイッスルのような見た目である。
「これを吹けば、私に連絡が来る。直接は会えないが、念話で話すことができる。」
「念話っていうのは...」
<こういうことさ>
突然、頭の中で声が響いた。いきなりのことでびっくりしたが、これが念話なのだろう。
「ハハ、驚いた?その笛を吹けばいつでも相談に乗るくらいはできるさ」
「ありがとうございます。」
「じゃ、私はもう行くよ。この世界のルールとかについては、彼女に教えてもらうといい」
ミカエルがさした方向から、一人の女性が走ってきた。
「彼女はミレイ。世界は違うが、条件を満たしてしまった人の一人だ...」
気づくと彼はもうおらず、青白く小さな光が舞っていたのだった。
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