25メートルの冒険
とうとうこの日が来た。じりじりと照りつける太陽も、今日はなんだかぼくに味方してくれてるみたいだ。
「それじゃ準備体操始めるぞー!」
先生の合図とともに、準備体操が始まった。いつもはだるくてめんどくさい体操だが、今日ばかりは気合い入れてやらなくちゃ。
「よーし、それじゃ、今日は25メートルのテストだから、順番にプールに入るように」
ついに来た。ぼくは胸のドキドキを押さえながら、自分の名前が呼ばれるのを待つ。今まで一度も、25メートルを泳ぎきったことがない。だから、今日こそ泳ぎきってやるんだ!
「次、林田」
名前を呼ばれて、ぼくはあわててプールに入る。じりじりと焼けた肌に、冷たい水がここちいい。でも、いつもよりずいぶんと、ゴールが遠く見える。たった25メートル、走ればすぐな距離なのに。
「よーい、どん!」
先生の合図があり、急いで壁をける。クロールで、大きく水をかいているつもりが、全然進まない。なんとか息つぎするが、水を飲みそうになってあっぷあっぷする。
――水が、くそ、重い――
たまらず顔を水面から上げる。足を着きそうになって、必死にバタ足する。大きく息をすって、もう一度大勢を立て直す。
――行ける、行くぞ、行かなくちゃ――
まるで未知の海を進む冒険家のように、ぼくはがむしゃらに水をかきつづけた。こうなりゃ意地だ! 絶対最後まで泳ぎきって。
「イタタタタ!」
激しいふくらはぎの痛みに、ぼくはぶくぶくと水の中に沈んでしまった。ボゴボゴという音と、強い痛みに気を失い、気づいたらなぜかプールサイドに横たわっていた。
「大丈夫か!?」
先生があわててぼくをゆする。どうやら足をつってしまったらしい。くやしいな、また泳ぎきれなかったんだ。
「よくがんばったぞ」
先生に言われても、ちっともうれしくなかった。でも、先生は続けた。
「10メートル超えだ。新記録だな、林田」
そうか、ぼく、今まで10メートルも泳げてなかったんだ。恥ずかしさで顔が熱くなる。でも、今日は泳げたんだ。
まだ足は痛むが、ぼくは胸がいっぱいになって、ぐっとこぶしを空に突き出した。太陽はあいかわらず強い日差しで、ぼくをギラギラと祝福してくれていた。