06.魔法訓練
ベッドから出ると、やはり裸のままだった。下を向いて自分の下腹部を見つめてしまった。
「どうかしましたか」
「あ、あの……触手に、腸内洗浄されちゃうなんて思ってなくて……」
「粘液を流し込むと、そこに女の子のお汁が溶け込むんです。それを再び吸い出すことで、お汁を触手魔物の中に取り込んでいるんだと思います」
「そ、そうだったんですね……」
「朝食の買い出しに行きましょうか」
「は、はい」
魔導二輪車に乗って村に行くと、朝市が出ていた。海産物が多いけど、それ以外のすぐに食べられる物もある。揚げた魚をパンに挟んだ物を買って、入り江に戻った。
師匠の家は、崖をくり抜いて作られている。おとぎ話に出てくる、木をくり抜いた家。あれをそのまま崖に移し替えた感じだ。まるで、おとぎ話の中にいるような気がしてくる。
朝食が済むと、魔法の修行だ。
「それではまず、風魔法の適性を確かめてみたいと思います」
「あの、あたしが以前使っていたのは、火と水なんですけど……」
「それは後からでもすぐに出来るでしょう。弓師におすすめなのは風魔法です」
「は、はい……」
「片手を顔の前に、こうして手刀のように構えてください」
「こうですか」
「そこに息を吹きかけてください」
「ふぅーー」
「手に接している空気が、前の方に動きましたね。今度は息を吹きかけずに、手に接している空気を魔力で前に送り出すように念じてみてください」
「むむ……」
じっと念じていると、なんだか手がざわざわしてきた。気のせいか、風が生じたように感じる。そして次第にはっきりした風になった。
「成功しましたね。今度は反対の手でもやってみてください。両手で使えるようにしておいた方がいいです」
「はい」
あたしに風魔法の適性があるなんて、初めて知った。この練習方法自体、知らなかった。風魔法というと普通は空気を新たに生み出して一方向に吹き付ける魔法だと思うけど、そこにある空気を動かすという発想からして違う。多分、師匠が独自に考えたんだろう。本当にすごい人だ。
そしてある程度自由に風を吹かせられるようになった頃。
「次は攻撃魔法を試してみます。風の刃ですね」
「は、はい……」
師匠は、弓師には風魔法がおすすめって言っていた。だからこれは弓師としての修行のはずなのに、これじゃまるで魔術師の修行だ。なんだかよくわからないまま師匠に付いて行った。
階段を上がって崖の上に出ると、海に向かって崖っぷちの草を的にした。
「これが風の刃です。ただ風を吹かせるのではなく、風に魔力を乗せるのが重要です」
草の先端、指の第一関節くらいの長さがスパッと切れた。草は揺れていない。ものすごい切れ味だ。師匠の動作を真似して何度もやってみた。最初はただの風が吹くだけだったけど、そのうち草にビシッと当たる感じがしてきた。そしてとうとう草を切り飛ばした。成功だ。
「あとは刃の薄さを意識して、熟練度を上げていきましょう」
練習している間に師匠は森で太い枝を拾ってきて、それを的にした。草を切るのに魔力の溜めは全く必要なかったけど、今度は手応えがありそうだ。
「あの……どうしてこんなに風魔法の練習をするんですか?」
「思ったより風魔法の適性が高いので、ここで手っ取り早くお金を稼いでおくのがいいと思います。魔力が強くなったからには上位の狩場に行きたいでしょうけど、手持ちの装備では足りません。かといって今の装備で行ける狩場では稼げないでしょう。そこで、風の刃一発で纏まったお金を稼ぐ方法を紹介します」
一発で纏まったお金……怪しすぎる。でも、師匠ならできるんだろう。あたしも、師匠に付いて行けばできるかもしれない。
魔力を溜めて撃つ練習をすると、魔力が減っていくのを感じるようになった。すると師匠があたしに回復魔法をかけてくれた。魔力の回復を早める効果があるんだけど、師匠のは効き目がすごい。さすが聖女級だ。
魔法の威力に合格をもらって、いよいよ出かけることになった。砂浜に下りると、温泉とは反対の方に小さな桟橋がある。師匠はそこに小舟を出した。でも何だか普通の小舟と違う。魔導二輪車と同じような鞍と舵が付いている。あそこに跨って操作するようだ。
「これは魔導艇です。魔石を使った動力で動きます」
師匠は服を脱ぎだした。
「濡れてしまうので、脱いでおいた方がいいですよ」
「は、はい。あの……漁師の人に見られたりしないんですか」
「これから行く海域には漁船が近付かないので大丈夫です」
あたしも服を脱いで、師匠に預かってもらった。鞍は一人用で、師匠が鞍に跨り、あたしは後部の空いている所に座った。師匠のキレイなお尻が丸見えだ。
「今日の獲物は鯱です。魚型の魔物で、この艇と同じくらいの長さです」
舟は入り江から出て沖に向かった。