04.北から南へ
この国の中央には国直轄地があって、その周囲に八つの領がある。大まかに言えば三かける三の枡目になっている。あたしが住んでるのは北東領だ。
お昼を食べ終わって、あたしたちは街を出た。そこで師匠はすごい物をアイテム袋から出した。魔導二輪車だ。
二輪車と聞いて思い浮かぶのは荷車とか二輪馬車だ。それらは二つの車輪が横に並んでいる。ところが魔導二輪車というのは、二つの車輪が前後に並んでいる。なぜ倒れないのか不思議だ。話には聞いたことがあるけど、見たのは初めてだった。かなり高価で、Sランク・Aランク冒険者にようやく行き渡ったという話だ。
馬と同じく跨って乗るようになっていて、鞍は二人乗り用だ。師匠は前に乗って舵を握り、あたしは後ろに乗った。するすると走り出した二輪車は、馬の全速力よりも速い。しかもその速さを保ったまま走り続けた。
直轄地の中央にある国府に着いた。馬車なら何日もかかる道のりが、わずか半日だ。なるほどこれは高ランク冒険者ならどうしても欲しい魔道具だろう。
「はああ……初めて来ました。ここが師匠の本拠地なんですね」
「違いますよ。私の本拠地は南東領です。まっすぐ南に向かってもよかったんですが、どうせ一泊することになるので、国府に寄ったんです」
日が暮れて、街には灯りのついた店がずらっと並んでいる。この明るさが繁栄のしるしだ。国府の栄えっぷりは話に聞いていた以上だった。
師匠の案内で異国風の店に入った。ウェイトレスの制服も異国風だ。当然料理も異国風で、使われている食材も香辛料も知らない物ばかりだった。師匠はこれが食べたくて国府に寄ったのかもしれない。
異国料理に満足して店を出たら、次はホテルだろう。ところが師匠は妖しげな通りに入っていく。着いたのは、どう見ても恋人同士で入る連れ込みホテルだった。
(まさか師匠、そっち? あたしのカラダが目的なの!?)
「今夜はここで、最初の特訓をします。というか、特訓の前段階ですね」
連れ込みホテルでする特訓て、一体どんなんだろう。槍士みたいにボコられてブッ倒れるのを想像してたけど、方向性が全然違ってきた。
部屋に入るとさらに混乱した。そこにはヘンな椅子みたいな拘束台とか、いろんな器具がある。いわゆるお仕置きをするところだ。別の意味でボコられてしまうんだろうか。
「魔力中枢の場所は大まかに話しましたが、正確にいうと、腸と子袋の間にあります」
「こ、子袋って……赤ちゃんが宿るところですか?」
「そうです。そこを刺激して魔力中枢に働きかけ、殻を破るという方針です。その前の準備として、腸内洗浄を受けてもらいます」
腸内洗浄……小さい頃、熱を出したりすると親にやられたアレだ。恥じらいが芽生える前だったから、ただ苦しいだけだったけど、十四にもなってアレをやられるのは恥ずかしすぎる。でも、どんな辛い特訓でも耐え抜くって決めたんだ。
「特訓の前に、お風呂に入りましょう」
部屋は風呂付きだった。師匠とあたしは裸になって風呂に入った。それにしても師匠のカラダ、美しすぎる。幼いのに、胸はあたしと同じくらいある。体が華奢な分、あたしよりも胸が強調されてる。
それに、クビレがすごい。コルセットでギュウギュウに締め上げた以上の細さだ。これは、あたしのカラダなんてお呼びじゃないだろう。あたしが師匠のカラダだったら、あたしみたいな冴えない女は放っといて、自分を愛して満足するに違いない。
「では、特訓を始めます。この台に乗ってください」
裸のまま、四つん這いのような恰好で拘束台に乗った。
「暴れたりすると怪我をしてしまうので、縛りますね」
手足を革ベルトで台に拘束されてしまった。これでもう、どんなことをされても抵抗できない。師匠があたしの後ろに回った。一番恥ずかしいところが丸見えだ。切ない予感に涙がこぼれた。
目が覚めると、ベッドの上だった。横には師匠が寝ている。昨夜は何度も何度も洗浄されて、完全に真っ白になって泣きじゃくった。でも、ベッドに移動した記憶はない。特訓の途中で失神してしまったらしい。
「あ……おはようございます」
「はっ……し、師匠! 昨夜はすみませんでした。最後まで耐え切れなかったみたいで……」
「いえ、昨夜は頑張りましたよ。完全に柔らかくなるまで洗浄に耐えましたから。これで、特訓の本番に進めます」
本格的な特訓の前の段階で失神してしまった。気を失うまでシゴかれる特訓……覚悟はしてたけど、想像とは全く違う形で現実になった。本番って、一体どうなってしまうんだろう。
屋台で朝食を買って食べると、南東領に向かって出発した。途中で休憩を挟み、二輪車の乗り方を教えてもらって、一区間をあたしが運転した。最初は怖々乗ってたけど、だんだん気持ちよさに目覚めてきた。
夕方、村に着いた。そこはなんと、海沿いだ。この国の北から南まで来てしまった。初めて嗅ぐ潮の匂いに、とんでもなく遠い所まで来たんだと実感した。