16.ワイバーン討伐
「ちょっと、ワガママもいいかげんにしなさいよ。そんなエッチな服着ちゃって。あんたが抜けたせいで、どれだけ迷惑したと思ってるのよ」
魔術師が騒ぎ出した。こいつが魔物の攻撃を受けたんだろう。
「あたしにPTを抜けるように言ったのはリーダーでしょ。あんたたちもその場にいて反対しなかったんだから、同意したってことじゃない。つまりあんたたちは、自分の判断の結果として困ったことになってるだけ。あたしに文句言うのはお門違いよ。とにかくあたしは単独でワイバーン討伐の依頼を受けたんだから、あんたたちが入る余地はないの」
「あっ、あんたなんて、あんたなんて、地味なカッコしてあたしたちに従ってればいいのよ! 地味子のくせに! チャラチャラしてるんじゃないわよ!」
全く話が通じない。相手をするだけ無駄だと思ってギルドから出た。
食糧の買い出しをして山に入り、地図に書き込みのある野営地に向かった。野営地に着くとテントを立てて、竈で夕食を作って食べた。
テントに入ると魔導防具を脱いでアイテム袋に入れた。そうだ、魔力鍛錬をどうしよう。テントの中でやったらびしょびしょになってしまう。
アイテム袋を持って森に入ると、小川の音がする方に向かった。そこで魔力鍛錬をして、泣きながら切なさをこらえた。
落ち着いてから道具をしまってテントの方に向かった。ところが、テントの近くまで来ると人の気配がする。急いで魔導防具を身に着けた。
「畜生、あいついねえぞ。どこ行きやがった」
その声は、元PTの剣士だった。他のメンバーも全員いるようだ。
「あんたたち、あたしに何か用?」
「おっお前……。いや、俺達はお前をPTに入れてやろうと思って来たんだ」
「まさか。あたしがあんたたちのPTに入るわけないでしょ。夜に女のテント覗くような奴のPTにね」
「うっうるせえ! お前は黙って俺に従ってりゃいいんだよ! その体に教えてやるっ」
剣士と槍士が襲いかかってきた。手籠めにして従わせるつもりなんだ。でもこいつら、ランク差の意味がわかってない。今のあたしから見たら、こいつらの動きはヨボヨボの年寄り同然だ。
とはいえ、いいのを何発か入れたのに倒れない。意外にしぶといなと思ったら、回復師が男たちの後ろから回復魔法を飛ばしていた。こいつが先だ。
男たちの間に割り込んで左右に突き飛ばすと、一足飛びに回復師に駆け寄って顎を蹴り上げた。回復師は吹っ飛んで、受け身を取ることもなく倒れた。
剣士は、あたしが回復師を倒したことに激昂して剣を抜いていた。でもやっぱり年寄りが杖を振るっているようなものだ。剣を握って振り下ろそうとする手に蹴りを当てることができてしまう。そうして剣を弾き飛ばし、男たちをボコって倒した。
「ひっ……く、来るなあっ」
最後に残った魔術師の方に向かうと、なんと魔術師は火魔法を放ってきた。一瞬焦ったけど、魔導防具が完全に防いでくれてノーダメージだ。火魔法は左右に分かれて流れ、倒れてる男二人を焦がした。
魔術師に駆け寄っておなかに蹴りを入れ、上体が前かがみになったところで顎を下から殴った。殺さない程度にボコって気絶させた。
アイテム袋からロープを出して四人を別々の木に縛り付けた。火魔法で焦げたのは男二人の膝あたりから下で、命に別状はなかった。
翌朝早くギルドに行って、あの四人に襲われたことを伝えた。ギルマスを含む職員たちと現場に行くと、四人は昨夜のまま木に縛られていた。
「俺達はそいつに襲われたんだ! PTを戦力外になったのを逆恨みしやがった!」
「ほう? 彼女にはワイバーン討伐を依頼してあるから、彼女がここにいるのは必然だ。しかしお前達は、今の戦績からするとワイバーンには勝ち目がない。そんなお前達がなぜここに来た? 彼女にPT復帰を迫っていたのは受付嬢が見てるんだ。ま、どっちが襲ったかは調べれば分かることだがな」
ギルドには、嘘を見破る魔道具がある。ギルドに加入する時、経歴や犯罪歴に嘘がないかを調べるのに使うから、冒険者は全員目にしてるはずだ。襲われたことをギルドに通報した時も、あたしの言葉に嘘がないか魔道具で確かめてる。
だから、あの四人が口裏を合わせていたとしても通用しない。案の定嘘はバレて四人ともギルドを除名された。それだけじゃなく、罪人として厳重に縛られたまま役人に突き出された。
身勝手な理由で人を襲い、あまつさえ致死性の攻撃を繰り出したのだ。あいつらの行いは盗賊と同じだから、死罪は免れないだろう。
その夜あらためて野営地に泊まって、次の日ワイバーン討伐に向かった。牧場の家畜を襲ったりするなんて、ずいぶん低いところまで下りて来ている。
でも討伐自体は順調に進んだ。目撃情報などからこのあたりに棲息していると考えられていた数は捕獲した。今回は依頼による討伐だから、依頼達成の報酬とワイバーン買い取り代金の両方をもらえてかなりの収入になった。
精算が済むと、いよいよこの街ともお別れだ。ここはあたしの地元ではあるけど、本拠地じゃなくなる。ギルマスに挨拶して、最後に知り合いの弓師にもお別れを言って街を出た。




