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01.追放~出会い

「悪いがお前にはPT(パーティ)を抜けてもらう」

 あたしにそう言ったのは、PTリーダーで幼馴染の剣士だった。

「えっ……で、でもあたしだって、確実に目を潰して」

 PTに貢献してる、そう言いたかったけど遮られた。

「メンバーも増えて、順調にランクも上がってきたけど、もうお前の弓じゃ通用しないんだよ。あれじゃ百発二百発()てても倒せやしないんだ。これまではPTの討伐成績でメンバー全員に昇格ポイントが与えられたけど、この先Bランクに上がるには試験を受けなきゃならない。課題の魔物を倒すだけじゃなく、メンバー全員がBランクに相当する力を見せる必要がある。お前の弓の威力じゃ、これまで俺達にぶら下がって昇格してきたのが丸わかりだ。お前のせいで不合格にされたらたまったもんじゃないからな」


 あたしは十歳で村を出て冒険者になった。同い年の剣士も一緒だ。冒険者ギルドに入れる最低年齢が十歳だからだ。村は山間(やまあい)にあって農地が限られてるから、人口が増えたら食べていけない。幸いあたしも剣士も十歳にしては狩の腕が良かったから、冒険者として生活していくことができた。

 それから仲間が増えて五人PTになった。盾を持つ槍士、魔術師、回復師。前二人が男で後ろ三人が女、全員同い年だ。

 PTのバランスがよくなって、上手くいくと思ってた。でもそのうち剣士と回復師、槍士と魔術師がいい仲になった。あたしは邪魔者だ。剣士に恋心を抱いてたわけじゃないけど、村を出た当初はなんとなく将来一緒になるような気がしてた。剣士と回復師がくっついてからは仕事だけの関わりだと割り切ろうとしたけど、わざわざ仲を見せ付けるような真似までしてくる。

 同期で一番だった弓も伸び悩んだ。敵が動いていても、狙った所にピンポイントで中てる腕は身に付いた。でも、威力が上がらない。剣士の指摘は本当のことだった。


(潮時かな……)

 そう思ってPT脱退を受け入れ、彼らを背にギルドの出入り口に向かった時のことだ。

「強く、なってみたいと思いませんか」

 目の前に立って話しかけてきたのは、まるで神話の世界から抜け出た精霊(ニンフ)のような美少女だった。

「えっ……ど、どういうこと?」

「まずは訓練場に行きましょう」

 彼女は先にギルドを出て歩き出した。建物の裏手には訓練場があって、射場(しゃじょう)もある。二人でそこに向かった。

 顔立ちはどう見ても十歳そこそこだったけど、体つきは艶めかしい。すごく華奢なのに凹凸がハッキリしてて、横から見た時の背中の線も大きくうねってる。

 服装も大胆で露出度が高い。しかも、見たこともないような高級な革だ。上級冒険者は自分の強さを示すために、自力で獲った強い魔物の革で服を作ったりするという。色と模様から思い当たる魔物といえばシルバータイガーだけど、当然ランクは高い。もし彼女が自分で獲ったとすれば、あたしよりずっと強いということになる。そうじゃなければ、お金があるということだ。


「それじゃ、まずは射を見せてもらっていいですか」

 射場に着くと彼女はそう言った。

「ちょ、ちょっと待って。先にそっちが見せてくれない?」

 弓師同士なら、射を見せるのは自己紹介のようなものだ。名を聞くならまず自分から名乗るべき、という格言に乗っかることにした。本当は見極めたかったのだ、彼女が持っているのは実力か財力か。

「そうですね。失礼しました。それじゃ的を用意するので、手伝ってもらえますか」

 射場にはすでに訓練用の的が設置されている。どういうことなのかよくわからないまま従うと、彼女は的の手前に丸太を立てた。射場の脇に立ててあった資材だ。あたしの体重と比べても三、四倍はありそうだ。華奢な彼女と比べたら五、六倍はあるだろう。それをくびれたウェストの脇にひょいっと抱え、ふらつきもせずに運んだのだ。

 あたしはやっとの思いで隣にもう一本の丸太を立てて元の位置に戻った。彼女が袖なしの短い上衣と短いスカートを脱ぐと、その下に着けていたのは本当に局部しか覆っていない極小の防具だった。

 最近、上級女冒険者の間では魔導防具というのが流行ってるらしい。革や金属の防具で体を護るんじゃなくて、魔力で敵の攻撃を防ぐという代物だ。だから防具が体を覆っている必要はなくて、強い冒険者ほど小さい防具を着けるそうだ。彼女もその法則に従っているなら最強クラスっていうことになる。

 彼女は脱いだ服を首から提げたアイテム袋に入れ、弓と矢筒を取り出した。当然のように自前のアイテム袋を持っている。あたしがいたPTでは共有のアイテム袋を皆で使っていた。そこにあたしの持ち物も入れてあったから、脱退する時にそれを受け取って、今は装備から何から全部持っている状態だ。

 そういえば、共有のアイテム袋を買う時にあたしも五分の一を負担したんだった。本当ならそれを返してもらうべきだったのに忘れていた。もっとも請求したところで、今まで養殖してやった費用だって言われそうだ。

 彼女は矢の(シャフト)を指でなぞるような不思議な動きをした後、力みも何もなく美しい動作で弓を引いて、放った。それと同時にバカーンという大音響とともに丸太が縦に真っ二つに割れ、左右に倒れた。

 姿勢や動作の一つ一つから、故郷の村の大ベテランと同等の風格がにじみ出てる。威力だけじゃなく、弓師としてあたしなんか足元にも及ばないくらい格上だ。一瞬呆然としたあたしは、あわてて彼女に深々と頭を下げた。

「生意気言ってすみませんでした!」

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