元老院 其の四
「──随分とお疲れの様ですな。当主」
郭家から帰って早々、待ち構えていた人物に篤明は内心で舌打ちをした。
──梁義雄!
「貴殿は暇そうで何よりだな」
「私も何かと忙しくしておりますよ」
義雄は篤明の嫌味にも平然として返す。
「用件は何だ」
「月様の縁談相手をお探しと伺いましてな。良い相手を一人見繕いましたので、お知らせしようと馳せ参じたのです」
──耳の早い事だ。
義雄の予想以上に早い行動に篤明はぐっと掌を握り締めた。
「その件なら、既に一人候補がいる」
「ほう、何方ですかな?」
「郭家の郭清海だ」
「郭家の名士とは! それはまた素晴らしい縁組ですな」
義雄の眉がピクリと動いたのを篤明は見逃さなかった。義雄も篤明が短期間で月の婿候補を見つけられるとは思っていなかったらしい。
大袈裟に驚いてみせるが、何処か態とらしく見える。
「貴殿の言う婿候補とは一体誰だ?」
「私の孫にございます」
「孫だと?」
篤明は首を傾げた。この梁義雄には孫は既に亡くなっていたからだ。
「最近、養子に迎えました。器量の良しで、霊力も高い自慢の孫です」
この返答に背筋が冷えるのを感じた。
──嫌な予感がする。
「きっと、月様も気に入って下さる筈です。さぁ、入って当主様にご挨拶なさい」
義雄に呼ばれ入って来た相手の顔を合わせる見て、その予感は直ぐに的中した事を悟った。
「ご挨拶致します。この度、梁義雄の孫となりました。梁──」
「貴様ぁ!」
義雄の孫という男が挨拶をし終わる前に篤明は怒声を上げて立ち上がっていた。挨拶をしていた孫は烈火の如く怒り狂う篤明の姿に呆然と立ち尽くしている。
義雄の孫となった男はあろう事かあの無月であったのだ。
──嵌められた!
義雄の勝ち誇った様な表情に篤明は腸が煮えくり返りそうだった。
「きっと気に入って下さるでしょう。何しろ、月様が自らお選びになった男子ですから」
月はきっと彼等を見捨てる事はしないだろう。だとすると、殆ど月の婚約者は決まった様なものだった。
「梁義雄、貴様の狙いは何だ?」
──月を使って梁家を乗っ取るつもりか!?
怒りを押し殺しながら尋ねれば義雄は好々爺然とした様でこう答えた。
「全ては梁家と月様の為ですよ」
その言葉の全てが白々しく感じた。