元老院 其のニ
「──郭家に君の従妹の縁談を打診したいって?」
「ああ。断っても構わない」
郭家当主の郭清孝が少し驚いた様子で尋ねると梁家当主は梁篤明は重々しく頷く。
あの後、月の婿を探すという方向で話し合いはお開きになり、今現在に至るという訳だ。
月の連れてきた男達は何方も見目麗しく、特に無月という少年の方は篤明も一瞬息を呑むほどの美しさだった。
その事に加え、月が彼等を見つけた場所が黄領である事から、篤明は月が彼等に誑かされているのではと考えた。
──彼等の見た目など、月は微塵も理解していない。彼等が梁家にとって有用だと言う事も一応は理解している。
月の言うように凱は腕が立ち、無月は類稀なる見鬼の才がある。その事実があるだけマシだと篤明は思うことにした。
──だが、彼等が黄家の間者である可能性は残っている。月が狙われたという可能性は考えにくいが、あらゆる可能性は考えておくべきだろう。
それならば、黄家か手が出せない様に早急に信用のできる相手を月の伴侶に据える事をかんがえたのだ。
──霊力が強く、口が硬く秘密を守れる者。
これが最低限の条件であるが、霊力は修練によって強化するものである。ある程度修練を終えたものとなれば、月よりも年が離れすぎてしまい、また若くても良家の跡取りである場合もあって中々に難しく、縁談相手は限られ、難航していた。
郭家を選んだのもその条件を満たしているからだ。
──元老院が聞きつければ、口を挟んでくるだろうな。
それは全て嘗ての母の発言が原因だ。
『──あの人が報復する為に蘇ったのよ!!』
元老院がその発言を信じているか否かは不明だが、月を次期当主として担ぎ上げようとする勢力があるのは否めない。
──俺が生きているうちはまだいい。だが、俺に万が一があった場合、篤実は……?
それが今現在の最大の懸念だ。
──せめて、篤実が梁家の嫡子としてもう少し自覚を持ってくれさえすれば良いのだがな。
「──その婿候補に私も入れてくれないだろうか?」
頭を抱える篤明の横で清孝が突然そんなことを口走った。篤明は呆然と清孝の顔を見た。冗談を言っている素振りはない。
「今、なんと?」
聞き間違いかと思い聞き返した。
「従妹殿の婿候補に私も入れて欲しいと言ったのです」
「…………」
聞き間違いではなかった。
「何故、黙るのですか?」
「俺の従妹は目を患っているし、身体が弱く、子が為せるか分からない。当主の妻には──」
「けれど、下手な相手には嫁がせられないのですよね。だから、郭家に縁談を持って来た」
篤明が何時も断る口実を口にしようとすると遮られた。見透かされていたようだ。
「事情は敢えて伺いません。だから、私を彼女の婿候補にしてください」
最終的に清孝の弟である清海を婿候補にする事でどうにかその場を収めた。




