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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第四章 紗華の大禍の誕生・中編
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廃墟の幽鬼 其の五

「──じゃあ、僕はちょっと彼女の所に行ってくるよ」


「ちょっとそこまで」といった軽い感じに「え」と皆が(ユエ)を見た。何より│無月ムーユエが一番驚いている。


「準備とか必要ないのか? こう、祈祷みたいな」

「一応、師匠について学んではいるんだ。あれは大して強い幽鬼ではないから対話すればどうにかなるかなって」

「どうにかなるって、貴女……」


 これには羅秀(ラ・シゥ)が呆れた声を出した。彼も月が幽鬼を祓うところなど見たことがない。ただ、月が師匠且つ主治医の李医師に学んでいるのは妖魔の対処法であった。


 ──古椿の霊もなんとかなったし、未練がなくなれば良いのよね?


 一応の祓魔の符も持っているからと月は首吊り姿の幽鬼の元へと歩みを進めた。




 ✧✧✧



 ギッギッと木の軋む音がする。


 ──憎い、憎い……


 女の悲痛な声が微かに聞こえた。


 ──何が憎い?

 ──私を捨てたあのお方……。


 念話で話しかけてみると返事が返ってきた。それとともに女の記憶が月の中に入ってきた。



 ✦✦✦



 この廃墟がまだ妓楼だった頃の情景だろうか。煌びやかな一室で男女が寄り添っていた。


「──私の事を身請けしてくださるのよね?」


 女が熱っぽく語りかける。


「あぁ、勿論」


 麗しい青年がそれに答え、女は満足そうに男にしなだれかかる。

 直ぐに場面が代わり、女の呻く声が聞こえた。


「私を騙したの!? 身請けしてくださるって言ったじゃない!!」


 男は鬱陶しそうに女を振り払い、別の女の元へと向った。女は()()()()で床に泣き崩れていた。



 ✦✦✦




『──ふん、くだらん』


 不意に声が響いた。深く透き通る男の声だ。

 その声の主を月は知っていた。月に取り憑いている剣の霊──黒炎鬼であった。


「何がくだらないの?」


 問えば、黒炎鬼は鼻で笑う。


『此処は花街であろう? 一夜の夢を見る場所。騙される方が悪い。あの女は曲がりなりにも妓女であろう。赤子が生まれればどうなるかなど容易に想像がついた筈だ』

「お前に何が分かるというの!」


 幽鬼は怒りを露わにするが、黒炎鬼に睨まれて「ひっ」と悲鳴を上げ黙り込んだ。


『で、お前の心残りは何だ? 男か赤子か』

「…………」

『さっさと答えよ! 我はそこのお気楽な小娘とは違う。一息に切り捨てる事も出来るのだぞ!』

「ちょっと……!」


 黒炎鬼が凄みを利かせると幽鬼は震え上がった。


「こっ、子供よ! 私の子」

「今、その子供はどうしているの?」

「憐れな子。私からあの方を奪った女の子供の世話を甲斐甲斐しく焼いてるわ。だから、あの子さえいなくなれば、あの子は自由になれるわ。最近、貴方が来るようになってから、不思議と力が湧いてきたからこの機会にと思っていたけど」


 ──取り殺そうとしたのが無月なら、この幽鬼は凱の母親という事になる。なら、無月と凱は異母兄弟って事?


 その事に気が付き、月は複雑な心持ちになった。


「安心して彼は名家の家臣となるわ」


 ──実際なってくれるか分からないけど。


「えっ? もしかして()()()が迎えに?」


 喜色の色を浮かべるが、月は首をふるふると振った。


「違うわ。けれど、彼は名家の者の目に止まったの。これから努力すれば出世も望めるわ」

「そう、良かった」


 女の幽鬼は月の返答に満足したのか、すうっと消えていった。

 一応、浄霊というものは成功したらしい。これは全て剣の霊のおかげだろう。

 だが、懸念事項が2つ増えた。

 これから迎え入れる二人は名家の御落胤の可能性があり、あの幽鬼の力が強くなったのは、()()《・》()()()()という事だ。

 その事実に月はがっくりと肩を落とした。




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