廃墟の幽鬼 其の三
「まどろっこしいのは嫌だから単刀直入に聞くけど、無月、君、見鬼の才があるよね?」
そう尋ねれば、無月と凱は同時に茶を吹き出した。
「何を言ってるんだ、烏白。冗談はよせ」
そう言ったのは凱の方であった。
「何故、冗談だと?」
「そんな貴重な才があれば、こんな所にいないだろう」
「兄貴!」
睨みを効かせる凱に無月が止めに入る。
「烏白、冗談は止めてくれないかい? 馬角も何か言ってくれ」
「烏白が、そう考えるからには理由があるのだろう? それを無月達に聞かせてみたらどう?」
月は秀に頷くと、真っ直ぐ無月に向き直った。
「赤い衣の女に心当たりははないかい?」
これにピクリと反応したのは無月だった。それを月は見逃さなかった。
「あるんだね」
「そんなものは……」
そう言いかけて無月の動きがピタリと止まる。
「無月はないと言ってるだろう?」
「あの廃墟には赤い衣の女の幽鬼がいる。早く別の場所に居を移すべきだ」
「いきなり、家を変われって……て」
そこで凱の方もはたと気が付いた様だった。
「お前、見えているのか」
今、話をしているのは目を隠している月の方だと。
「ああ、見えているよ。人ならざるものならね」
その言葉に無月と凱は唖然としていた。
「よく化けたもんだね」
呆れと嘲笑を含んだ声が無月から漏れた。
「おかしいと思ってたんだ。幾ら名家と懇意にしているからって、護衛なんかしてもらえるはずないって。君が名家の子息なら合点がいく」
「何だと?」
無月の言葉に凱の視線も鋭くなる。
「まぁまぁ、そう喧嘩腰にならないでよ」
肯定も否定もしない月の代わりに秀が二人を宥めようとすると、睨まれてしまった。
「勘違いしている様だから説明するけど、名家が見鬼の才を持つものを探しているのは何も希少な存在だからってだけじゃない。君達を保護するって目的もあるんだよ」
「保護だって?」
無月はやや剣のある声を出した。今までに何か嫌なことがあったのだろうかと月は推測した。希少な才を持つものは金になる。世間にはその様な者を攫って売り飛ばそうとする破落戸もいるらしいので、何かしらの経験はありそうである。
「強い力は強い魔物を呼ぶ。使い方を教え導くのも名家の役目なんだよ」
「ふん、僕達にどうしたいの?」
「まずはあの廃墟から離れて僕の元へ来てもらう」
そこまで言いえば、無月は押し黙った。




