廃墟の幽鬼 其の二
「──一体、どうしたんだい?」
無月の元を訪れた羅秀は開口一番にそう言った。現れた無月の顔色が余りにも悪かったからだ。先日会った時は彼は元気だった。
「あー、いや大した事はないよ」
「そんな訳無いだろう! お前達からも言ってやってくれ!」
明らかに大丈夫ではない顔色と声で誤魔化そうとする無月に凱も眉尻を吊り上げ、苛立ちを顕にしている。
「無月、無理は良くない」
「医者を呼ぼうか?」
月と秀が二人で医者に掛かるようにか勧めても「必要無い」との一点張りだ。無月達には十分な礼金を渡しているので、医者にかかる金が無いという事はないだろう。
──霊障かしら?
ふと、この廃墟の幽鬼の姿が浮かんだ。
霊障とは幽鬼による触りであるが、無月達は長らくこの廃墟を住まいにしているので、その悪い影響を受けていると考えても不思議はないだろう。
今日此処に来てから幽鬼の気配が強くなっていることに気が付いていたが、こうもあからさまに影響するだろうかと思案していると廃墟の奥からギッギというきの軋む音が聞こえてきた。
その音にピクリと反応したのは無月であった。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない。なぁ、外に行かないか?」
「外に? 此処で休んでいた方がいいんじゃないか?」
しきりに外に行きたがる無月に月は確信した。
──無月には見鬼の才──幽鬼を見る才能──がある。
月が無月に目を付けたのはその才があると思ったからだが、彼はそれを隠しているように見えた。
生まれつき見鬼の才がある者は引く手数多だ。妖魔討伐を行う名家なら尚更喉から手が出る程欲する才である。望めば立身出世も夢ではない。少なくともこのような場所で明日をもしれぬ生活を送る様な事はないだろう。
──それを聞き出す機会かも。
そう思い月は口を開いた。
「此処で騒いでいても仕方ないし、何処か茶屋でお茶でも飲まないか?」
「そうしよう」
「だが……」
渋る凱を引きずる形で廃墟から連れ出すと、無月は足取りは重いものの何処かほっとしている様子だった。




