2つの噂 其の四
「──思いの外、賑わっていますね」
秀が顔を顰めながら辺りを見回した。見世物小屋の周辺には人集りが出来ている。
「噂が広がるくらいですからね。興味を唆られるのでしょう。しかし、奇妙ですね」
「奇妙?」
「ええ、我等八名家は妖魔討伐任を受けています。妖魔を捕らえて商売にしていると聞けば、調査をするのが普通でしょう。危険ですから」
「黄家はその義務を怠っている、という事?」
子峰は月の問に肩を竦めた。
「或いは端から眉唾だと考えているか、ですね」
秀や子峰曰く、妖魔と称して動物の子供を染料で染めて売ってたりする事はままある事らしい。詐欺に当たるものの、危険がない限りは放置される事もあるらしい。
「今回もそうだといいけど」
3人は見世物小屋の中に入り、直ぐに異質さに気が付いた。見世物小屋の中は薄暗く燭台に照らされた舞台上が見える程度。室内は香を焚いているようで鼻の利く月には頭がくらくらする程酷い匂いがしていた。
「──あれは本物の妖魔に違いない!」
「──猿の子でも連れてきているだけさ」
客の言葉に耳を傾けながら、座席に座り演目が始まるのを待った。
最初は木乃伊や蛇の妖魔を見世物にしていたが、秀によれば大凡作り物や異国の爬虫類であるらしい。
──子供の失踪と関係ないか。
そう思い始めた頃、いよいよ目玉の演目に差し掛かった。
「──生きた狒々の子供です!」
その声に会場がわっと湧いた。
「あれは……」
月にはそれが何か分からなかった。ただ、秀と子峰の反応からそれが自分達の望まないものである事は十分察せられた。
聞いた話によると檻の中には震える子供が入れられていたそうだ。秀に聞いても詳しく教えて貰えないあたり余程酷い有り様だったのだろう。
この見世物小屋から帰った後、子峰がどういう方法を使ったのか分からないが、1週間と経たないうちに見世物小屋の者達は捕まり、子供達も解放された。
但し、皆酷い怪我を負っていたらしく、李医師の元で治療を受けていた。
見世物小屋の主人に捕らえられていた子供達の殆どが孤児や口減らしで連れてこられてきた様で、子供達の引き取り先を探すのに難儀していた。
「──欲のためにこんな事をするなんて、妖魔よりも人が恐ろしいと実感したよ」
とは、後の秀の言である。
無月の探していた孤児も無事見つかったが、実に後味の悪い事件であった。




