2つの噂 其の三
「──護衛だって!? 梁家に知り合いがいたのか!」
「ええ、彼は梁家に出入りしている商人のご子息なんです。私の主とも親しくて。このような場所ですし、私自ら護衛を買って出たんです」
──間違っちゃいないけど……。
感嘆する無月に子峰が平然と言ってのけるので、月は背中がむず痒くなってしまった。
「じゃあ、子供が消えている件も調べてもらえるの?」
「残念ながら公にはできません。此処は黄家の管轄ですから、下手に手出しが出来ないんですよ。梁家と黄家との間には色々とありますしね」
「そ、そうか」
そう言って少し落胆した様子を見せる無月に子峰はこそりと告げた。
「ただ、密かに調べる事は出来ます。あまり期待はしないで頂きたいのですが」
「!」
その言葉を聞き、無月はぱっと明るくなった。
その後、子峰は細かい事情を聞くと情報収集をしてくると言って早速動き出した。
「──烏白、馬角有難う」
いきなり頭を下げた無月に月と秀は目を丸くした。
「僕達は何もしてないよ。それに何もまだ解決してないし」
「だけど、俺達だけじゃきっと話も聞いてもらえなかった」
「でも、これからだよ。消えた子供達が何処へ行ったのか。単純に連れ去られたのか、事件巻き込まれたのか、今はまだ何も分かってないんだから」
月がそう言えば無月は「そうだな」と神妙な顔で頷いた。
✧✧✧
「さて、帰りましょうか」
子峰が二人の元に戻って来るとそう声をかけた。しかし、月はふるふると首を左右に振った.。
「一箇所寄りたいところがある」
「もしかして、見世物小屋かい?」
秀が「えっ」と声をあげた。
「寄るだけだよ。同時期に流れている噂だ。何か関連があるかもしれないだろう?」
「自ら動かれる必要はありませんよ。私が戻ってから……」
そう言いかけた子峰に月は顔を顰めた。
「全く子が生まれたばかりなんだから、今は梅と子供についてあげなきゃいけないでしょう?」
「子供が消える事件が解決すれば、安心して子育てに専念出来ますよ」
あくまで事件の解決が先だと言う子峰に月は溜め息を吐いた。
──無月には密かに調べるだけだと言ったのに。




