2つの噂 其の二
「──最近、浮浪児が消えてるんだ」
そう切り出した無月に対し、二人揃って嫌そうな表情を向けてしまったのは悪くないだろう。
何故そんな話になったのかというと、楼主に無月の住んでいる場所を聞き、訪ねる道中の事である。
無月と少年が何やら話し込んでいるのを見つけた。少年は直ぐに無月と別れて何処かに行ってしまったが、残った無月からそう切り出されたのだ。
「おい、何でそんな顔をすんるだよ。別にどうこうしてくれって訳じゃない。何か知らないかと思って聞いてるんだよ! 商人ってのは顔が広いんだろう?」
無月の言葉に二人は顔を見合わせる。
「子供が消える話は眉唾なんじゃないの?」
「眉唾? 実際消えてるのにか?」
「浮浪児だろう? 事故にあってとか、病気にかかって行き倒れただって有り得るだろうさ」
「俺の話を信じないのかい?」
むっとする無月に二人は慌てて釈明する。
「違うよ! 来る道中も同じ話をしていたんだけど、僕が聞いた話だと実際消えた子供なんていないって聞いたんだよ」
「人攫いが業々嘘の話を流してるって事か? 何の為に?」
子供を攫って売り飛ばすというのは時折ある話だ。だが、敢えて子供が消えた話を消して回る意味が分からない。
「何か他に理由があるんじゃないの?」
3人は顔を見合わせた。
「だとしても、警吏隊に頼むしかないね。僕達にはどうにも出来ないよ」
「浮浪児達の話を聞いてくれると思うか?」
そこで月と秀は押し黙ってしまった。幼い子供の言うことだ簡単には聞き入れたりしないだろう。
「僕の伝手を頼ってみるよ」
──頼りたくはなかったのだけど、羅秀もいるから無茶をする訳にいかないしな。
月が仕方なくそう切り出し、くるりと踵を返して目的の場所へと歩き出した。
「えっ、何処に行くんだよ?」
無月は月が突然の明後日の方向に歩き出した事にぎょっ行動にぎょっとしたが、秀の方は察したのか、様子を守っていた。
月が先程いた場所から少し離れた曲がり門で止まった。案の定そこには予想通りの人物が壁に背中を預けて立っていた。
「おや、バレていましたか?」
「バレバレだよ。子峰」
月が気が付いていた事に当然気が付いていたであろう側仕えの男と向かい合い月は何ともいえない顔をしてしまった。




