妓楼の怪異 其の一
「──怪異、ですか?」
「あぁ、最近建物内を走り回る音がしてな。音のする方を覗いて見ても誰もいないってんで妖魔の仕業じゃないかって」
「別の妓楼の嫌がらせかとも思ったんだがねぇ」
凱の伝手で楼主に口利きをしてもらったのは良いが早速問題が起きていた。
「──そういう訳で今客足が遠のいてる。生憎だが、今取引は出来ないよ。本当にいい着物何だがな」
着物自体は気に入ってもらえたようだが、それ以外の問題があるらしい。
「調査を依頼しないんですか?」
「とっくに依頼したよ! だが、ここの管轄はあの黄家でな、緊急性もないからって腰が重いのさ」
「あぁ、なるほど」
馬角──羅秀はちらりと烏白──梁月を見た。表情は分からなかったが、彼女はパンと手を叩いてこう言った。
「なら、その怪異を我々で解決すれば取引して頂けるという事ですね!」
羅秀は表情を変えなかった己を心の内で偉いと褒め称えた。
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「──物音がするくらないなら何処の家門も対応は大して変わらないよ」
「つまり?」
「邪魔が入らない」
「やれるならやってみてくれ」と大して期待した様子もない楼主に一応の許可を貰い、妓楼の中を見て回ることとなった。開店前という事でまだ準備をしている妓女がちらほら目に入る。
「で、どうする? 本当に払える?」
「勿論。心配なの?」
自信満々な友の問に秀は首を左右に振った。
「いいや、そうじゃなきゃ。書状を交わした意味がない」
月の思いつきの提案であるものの、しっかりと書面にそれも自分達に有利な条件で交わしいる辺り、自分でもちゃっかりしているなと思う。そうでなければ、きっとこの先も商人としてはやっていけないだろう。
「神頼みでもするのかい?」
秀は月に尋ねた。月には花神の加護があるのは以前から聞き知っているが、それがどの程度のものかは知らない。
試しに尋ねて見たが、月は「まさか」と笑うだけだ。
「この程度の相手に必要ないよ」
まるで相手を知っているかのように語る月に秀ははっとした。
「もしかして、もう原因が分かっているのかい」
そう問えば月は不敵に微笑んで答えた。
「勿論」
その返答に秀は呆気に取られてしまった。




