化け猫 其の三
「──化け猫ってのは恐ろしいね。やっぱり、この猫も何処ぞへ捨てて来るべきだよ」
母親はそう言って鼻を鳴らした。しかし、羅羽は首を左右に振る。
「この話は一見恐ろしい化け猫の話ですが、実は別の解釈もあるのです」
羅羽の言葉に母親は眉間に皺を寄せた。
「『この猫は殺された主人の為に仇討ちをしたのだ』、と。そう考えると、猫というのは存外義理堅く、情が深いのかもしれないですよね」
「そうかねぇ?」
「そうだよ! その猫は化け猫になって、悪い奴等をやっつけんだ!!」
母親の方は訝しげに羅羽を見るが、子供の方はここぞとばかりに同意する。羅羽は子供の方に向かって微笑んだ。
「その猫も大事にすれば、何かしら恩寵があるかも知れませんね」
「僕、大事にする!」
「お前は!」
目を釣り上げ、母親は羅羽を睨んだ。羅羽は苦笑いを浮かべながら続けた。
「ただ、どうしても、捨てるというのであれば私が引き取りましょう」
「旅のお方がかい? また、どうして?」
母親は怪訝そうだが、化け猫かもしれない猫を貰ってくれるならと少し逡巡する素振りをみせた。羅羽はにっこりと微笑んだ。
「実は私の家はしがない商家なのですが、商家では猫は幸運を呼ぶ生き物として大切にされているのです」
「おや、まあ!」
「本当!?」
母親と子供は目を丸くして驚いた。
「ええ、本当です。その猫は化け猫と疑われる程長生きな猫なのでしょう? きっと、我が家に幸運を運んでくれる事でしょう」
羅羽は態と神妙な顔をして言った。そっと母親の反応を見ると、『幸運を呼ぶ』という話には興味を引かれたらしい。
「だけど、もしこの猫が本当に化け猫になって、この子を襲ったら、と思うと恐ろしくてねぇ……」
「母ちゃん……」
母親は子供を心配して猫を飼う事を反対していたらしい。最初程、反対している様子は無いが、少し迷っている様だった。子供の方にもそれが伝わったらしく、猫と母親を交互に見ている。
「そう言う事でしたら、少し時間を差し上げましょう。私は村長に用事があります。帰路もこの道を通りますので、矢張り飼えないというのであれば、声を掛けてください。連れて帰りましょう」
羅羽がそう言うと親子は少し安心した様子を見せた。