花街 其の四
無月と別れてから、烏白こと月は相棒の馬角こと羅秀にぽつりと呟いた。
「──阿秀、欲しいものは手に入れられる時に手に入れておくべきだと思わないかい?」
秀は言葉の意味を瞬時に理解し、「まだ、着物の売り先も決まってないのに……」と何とも言えない表情をした。
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「──また来たのか」
日も空けず再び現れた二人に無月は驚き呆れた様な声を出した。先日の怪我は癒えておらず、じくじくと傷む。
「──いやぁ、直ぐに見つかって良かったよ。君に頼みたい事があってね」
「俺に?」
そう言ったのは馬角だった。てっきり、用があるというのは烏白だと考えていたので無月は目を丸くした。
「花街の事は花街の奴に聞くのが一番だろう。僕達は商売をしたいんだ。何処か良い店を知らないか? 礼は弾むよ」
「俺は口利きなんて出来ないよ?」
無月が怪訝そうに言うが、馬角は首を左右に振った。
「口利きしてもらえれば有り難いが、案内や情報だけでも構わない」
余りにも割の良い話に疑いたくなるものの、金払いが良いのは烏白で体験済みの為、無月は渋々了承した。
──別に乗り気じゃあない。
──良いとこの坊っちゃんだし、俺が助けてやらないとすぐ騙されるだろうからな。
そう無意識に自身に言い聞かせている事に気が付き、無月は頬が熱くなった。それを二人に悟られたくなくて、無月はそっぽを向いたまま口を開いた。
「おっ俺の兄貴分が楼閣で用心棒をしているんだ。そこの楼主に伝手はないか聞いてみるよ」
「本当かい? それは助かる!」
「なぁんだ。ちゃんと伝手があるじゃない!」
「聞くだけだ! 聞くだけ!」
二人に感謝され、無月は更に頬を染める事となった。
「──無月?」
その声に振り向くと二人に紹介しようと思っていた兄貴分が立っている。昨夜は徹夜仕事であった為帰って来なかった。まだ、楼閣の方にいるものと思っていたが、家に戻る途中だったらしい。
「あ、兄貴!」
無月がそう言葉を掛けようとした時は彼は血相を変えて後ろの二人にいきなり殴りかかった。
「兄貴、まっ……!!」
──ガッ!!
無月が止めようとしたが、間に合わず鈍い音が響いた。




