成人の祝い
月日は流れ、羅秀と出会ってから8年が経ち、二人は15歳になっていた。その間に月の歳に羅秀という少年に対する印象は様変わりしていた。
月にとって羅秀は最初賢く良き友であったが、現在は小賢しい狸という印象である。
彼は事実賢く良き友ではあるが、商人の気質なのか抜け目がなく、口が達者で下手な大人より頭が回るので厄介極まりない。
一方の月も彼の影響なのか、口だけは達者になった。
「──成人の祝には何を頂いたんだい?」
「刀よ。兄上にいただく約束をしていたの」
月の15 歳の祝の日、訪ねて来た羅秀が砕けた口調で問う。
当初こそ月に対し敬語であった秀は月の希望もあって今の口調になったのだ。勿論、人前は避けるが。
「刀? 剣ではなく? でも、武人でもないのにそんなもの貰ってどうするの?」
秀は盛大に眉を顰めてみせた。遠慮のない言い方に少しむっとして月は言い返す。
「いただいたのは守刀よ。本当は剣が欲しかったけれど、武人でもない娘には守刀の方が良いだろうって」
月だって孫子峰に教わりながら密かに修練を積んでいる。この目が無ければ、兄の助けとなるべく武の道へと突き進んでいただろう。
「成る程、是非見せてくれないか?」
少しそわそわとした様子が隠しきれない秀に今度は月の方が眉を顰めた。
「見たいの?」
「ああ、物凄く! だって、名八家の梁家は武に秀でた家。その名家の武具を目の前で拝める機会なんて早々無いだろう!?」
きっと今の彼の瞳は何時になく輝いていることだろう。そんな秀に月は呆れてしまったが、遠慮なく自慢出来る相手もこの羅秀しかいないので見せてやる事にした。
「これよ」
そう言って、羅秀の前に守刀を置く。秀は刀に見入っているのか言葉を発する様子がない。
「どう?」
余りにも沈黙が長いので、痺れを切らして月が尋ねた。
「素晴らしい! 素晴らしいよ!! この刀身の薄さ軽さ、腕の良い職人が造ったのは間違いない。それにこの朱色に光る刀身は美しさ! 一体どうやって造ったのか、僕が欲しい位だよ!!」
「あげないよ!?」
興奮気味の秀に嬉しさを通り越して若干引いてしまった。商人として目利きは一流の秀の言うことならば間違いはないだろう。秀の本気を感じ、月は慌てて守刀を隠した。貰ったばかりのものをあげるなんてとんでもない。
月が刀を隠すと残念そうにしながらも彼は居住まいを正した。
「ごほんっ、失礼。今日は成人の祝は勿論だけど、先日阿月から頼まれていた件について案を持って来たんだ」
その言葉を聞き月は背筋を正した。




